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討ち入り→sideY
とりあえず、中に入るまではうまく演技しないとな。
歩き方や仕草、女の動きをどこまで再現できるか。どこで誰が見ているかわからないしな。俺の場合は、もし見つかっても、波砂という隠れ蓑がある。
事務所につくと、野性的勘からか東流はカメラに映らないようドアの影に隠れ、他の3人もそれに倣ってカメラの死角をとる。
東高のヤツらだが、そういう戦いの勘だけはしっかりしているのは有難い。
俺はゆっくりとインターホンを押して、出来る限り女に聞こえるような裏声をつくり、マイクに向かって声を出した。
人を騙すことは、かなり慣れっこだ。散々外見のことて、持て囃されたり、反感を買ったり、自分すら騙さないと人とはうまくやってはいけなかった。
それでも、近くに東流がいたから、それほど酷い経験はしないで済んでいると思う。
こないだのことは、うろ覚えだしカウントしないことにしている。
まあ、記憶を無くしたことだって、俺が俺自身を騙しているだけの事に他ならない。
インターホンのカメラがカチリと音をたて、酷く掠れた低い男の声が聞こえた。
「え、ママの代わりに今月のみかじめ払いにきたんですけど」
少しだけ高い声を鼻にかけ、違和感がないように話す。
「あー。ちょいと待ちィ」
僅かに緊張の面持ちをするのは計算。
ドアが開く角度を確認すると、軽く脚を持ち上げて待つ。
開いた瞬間に、相手のアゴ先に脚をヒットさせて仰向けに転がせば中に入るまでの隙間を作れる。
東流が背後に引っ付いて身を隠してくる。
中の音を聞き逃さないように耳を澄まし、ガチッと鍵の回る音に俺は身体を斜めに入れ替え、
「ドコの店ェ、グワッ!!!っ!!」
皆まで言わせず、スキンヘッドの男のアゴ先にとんがった女ものの靴をヒットさせて、倒れるのを確認すると、股間にヒールを捻じ込ませる。
「ンだ、ゴルァー!!」
怒号があがる瞬間、ぐいと身体を押しやられて俺はトールの背後に回る。
ちらと視線をめぐらせると、あわせて、7人程度だ。プロとは言え、東流がこの数に負けるはずはない。
一気に流れ込んできた、スーツの男と柄シャツのを男を東流が薙ぎ倒すのを見やり、東流の背後を狙う男にドアの前に置いてあったモップを手にして、頭を殴って股間に蹴りを入れる。
士龍は、奥に縛られている男の方に名前を呼びながら向かっていった。
……マジか、恋人って男かよ。
意外に思いながら、響く銃声に目を見開く。
「士龍!!!」
悲鳴のような声があがり、二発目の銃声。
マズイ!!
と、思った瞬間に、銃を持つ男に東流が突進して腕をひねりあげるのが見える。
周りの男たちを、俺は動けないように縛り上げて、東流を狙おうとする男たちを他の2人に視線をやって囲むと一気に殴り倒す。
なんとか、カタをつけて周りを見回すと、士龍が倒れた床には、ダラダラと血が溢れ出していた。
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