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逃走中→sideY

士龍は後部座席を陣取って、痛めた脚を伸ばし半寝の状態になっている。防弾チョッキを着ているとはいえ、背中も撃たれたらしく衝撃がかなりきているようだ。 それでも意識があるのだから、精神力はかなり強い。 俺の横には、士龍の助けた赤毛の恋人が、ひどく居心地悪そうに座っている。なんだか、空気が重い。 前に東流に報復で絡んで、士龍が引取りにきたのもこの子のことだろう。 「ヤッちゃん、車もってんだね。すごいなー」 怪我人の癖に空気を払拭するように、士龍はのんびりとした空気を醸し出して俺に話かけてくる。表情を見ると余裕そうだが、額に汗が浮かんでいる。 こんな時まで痩せ我慢か。まあ、昔からついた処世術は消えないもんだよな。 「親から貰ったやつだから、俺が凄いわけじゃない。シロは免許とらないの?」 誕生日はもうきてるはずだから、卒業したらとるつもりなのかな。 「バイトしなきゃね。俺、喧嘩ばっかして怪我も沢山したからさ、あんまりバイトできなくって」 「そうだよねー。俺もトールとなるだけ一緒にいたいからさ、バイトあんまりしなかったし」 俺のマンションからはそう遠くはないが、念のため入組んだ道を通り、例え追っ手がいたにしても撹乱するように走る。 普段より倍の距離は走っている。 「東高の真壁って名前は聞いて警戒はしてたけど、まさかシロだとは思わなかったな」 「ん、仲間にもトール君には手を出すなってゆってたから。警戒なんていっても、俺じゃトール君に瞬殺されるってば」 「ちょっと気持ち悪いなって。名前聞くのに、顔あわせないとかさ……避けてた?」 俺の言葉に士龍は、わかる?と言いながら、おもしろそうな顔をして笑った。 「だって俺、トール君やヤッちゃんに会えるかなって東にいったんだよ?喧嘩したくないし、なるたけ会わないようにしてたんだよ」 素直な言葉に嘘偽りはない。 マンションの駐車場へ車を入れると、ゆっくりと停める。 シートベルトを解いてエンジンを切ると、赤毛君は助手席を降りて後部座席のドアを開け、士龍の身体を支えるようにしてから背負う。 拉致られて体力もないだろうが、東流より少し大きい士龍を俺は運べる自信はないのでありがたい。 「大丈夫?」 体力削られてると思い問いかけると、ひどく憔悴しきった表情だが、しっかりと頷く。 「巻き込んで、わ、りい、シロウは俺が運ぶから」 低いけどバリトン入ったいい声だな。やつれているけどわりかしイケメンだし。 「シロは俺らの幼馴染みだから、あんまり俺らに気を使わねーでいーよ」 背中におぶさった士龍を見上げると、目を細めて幸せそうな表情をしているので、邪魔しないように俺は先にエレベーターに乗りこんだ。

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