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苦いおもいで→sideY

よりを戻したばかりで、感極まっているふたりを残して、俺と東流は当初の予定通り駅前のホテルに歩いてきた。 帰りのことも考えると歩きが1番な気がする。 東流は、漸く到着したそのホテルを見上げて、軽く息を吐き出して少し眉を寄せた。 なんだか、表情がいつもと違う。このホテルに嫌な気持ちがある、そんな顔つきだ。 「トール、来たことあるの?」 まあ、俺のことだし、趣味趣向にそんなに変わりはしない。表情から見たかんじだと、あんまり良い記憶じゃないのだろう。 SM趣向のある部屋もあるくらいだから、もしかしたら、色々と無理させたのかもしれない。 「あるよ…………。あんま、良い思い出じゃねーけど、あん時もヤスは女装してたな。なんか、色々デジャヴ」 ちらと向いた表情からは、俺に対してはまったく刺とかはない。俺に対する嫌悪とかではなさそうだ。 「そうか、やめとく?アッチにするか」 思わず違うホテルを指さすと、東流は俺の腕をぐいと引っ張る。 「これは、オマエへの祝いだ。へんな遠慮はいらねーよ」 東流は、潔い顔をして、俺を中ホテルのに引っ張りこむ。 「何があったかとかは教えてくれねーの?」 東流の気が変わらないうちに、パネルから木馬や器具が取り揃えられた部屋を選び、カードを受け取る。 エレベーターに乗ると、東流は俺をじっと見やり、 「思い出さないなら、俺としちゃあオマエに思い出しては欲しくねーかな」 そして、東流は俺の体にぐっと身体を押し付けて、壁ドンよろしく腕をついて目を覗きこむ。 「悪い思い出は、今度はオマエが上書きしろよ」 命じることになれた口調。 東流の本来の目の色に、俺は虜になる。 「勿論」 東流は、俺の悪い記憶を上書きしてくれた。 ならば、俺もそうしないと。 それにしても。 「トール、すげーちんこ硬いの当たってるんだけど。もしかしてすげえ期待してる?」 頷く東流の首筋が紅く染まるのに、俺は耐え切れずエレベーターの中だというのに、首筋にかぶりついた。

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