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すべてを剥き出しに→sideT
昔は喧嘩をして身体を動かせば、性的欲求なんかはすぐに吹き飛んだと言うのに、いまは逆だ。大暴れしたのに欲求が消えない。いや、むしろ、興奮につられてしまっている。
期待とか以前に、俺はずっとその興奮に煽られてるのだ。
「ちょっとづつは色々思い出してるのに、ここに来た記憶はちょっともないんだ」
噛み付いた歯の隙間から漏れる辛そうな康史の声。
きっと、康史も、思い出して辛い思い出に向き合った。
俺だけ逃げるのは、カッコわりいな。
「教えて?トール、なんでそんなに、手が震えているの?」
優しく響く声に、ぐっと胸が詰まる。暴かれたくない過去。忘れてしまっているのなら、全て覆い隠したい。
エレベーターが止まって、俺は康史の腕を無言でひいて部屋の前に立つ。
俺には怖いものなんか、ないとずっと信じていた。
だけど、あの時、俺は怖いものを感じてしまった。隠すことは自分の臆病を認めることになる。
康史は俺の顔を見上げて、キーカードをを挿し込む。
「最初に来た時は、俺、敵にクスリ嗅がされてフラフラだった。敵は撒いたんだけどさ」
ヤスの腕を引いて診察台のようなベッドへと向かい、俺はヤスの腕を離して、ストリップよろしくばさばさと服を外して全裸になる。
「こーいう部屋だし、まあ、ヤスなら拘束するだろ?」
台に腕を置いてヤスの目の前に尻を差し出し、ケロイドになっいる尻頰をそっと自分の手で撫で、
「気を失うまでヤリまくって、そこに、敵がやってきてヤスを殴った後、俺は……」
「トール!わかった。いい、いうな」
指先が震えている。らしくねぇ。とっくに、わすれたはずだった。
「ここにも、ヒデェ落書きされたンだけど、ヤスが焼いて消してくれた。ここは、ヤスのだって印に変えてくれた」
「も、う、いいって、トール」
「悪い思い出だけど、俺は、これは嬉しかったんだ」
ケロイドを何度も指でたどると、その動きを止めるように康史の手が重なる。
「トール。オマエは、全部、俺のだ」
背後から身体を抱きしめられて、うなじに歯をたてられる。獣の掟のように俺は力を抜いて目を閉じる。
すでに臨戦態勢に入っているペニスの先端をくちくちと擦って粘液を溢れさせる。
「お、れは、ヤスの、だ。ぜんぶ、オマエのもんだ」
康史の言葉に答えながら、俺だけが理性をはがされていく。なんもかんも、はがされて、むき出しの獣になる。
思い出してほしくない、だけど、気持ちは思い出してほしい。
せめぎあうのは、初めて怖さを覚えた瞬間のことだから。
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