361 / 405

【番外編】卒業旅行→sideT

軽く泳ぎを見せて振り返ると、康史の姿が水面に見えない。 俺は慌てて周りを見渡す。 いねえ、マジかよ!! どこだ。どこに、いった。 目を離したのは泳ぎを見せた一瞬だ。 さっきまで近くを泳いでいたのに、こんな短い時間で消えるとかおかしい。 水面に小さな泡立ちが見えて、波立ちて黒い影のある場所を見つけて焦る。 まだ、ほんの1分も経ってはいない。 まさかな。 溺れた、とか? そんな激しい水音はなかったはずだ。 水に潜り、さっき見つけた影をさがす。 もがく様子もなく、海底に吸い込まれそうになっている水の隙間に揺れて映る淡い肌色に、心臓が凍りつく。 くそッ、もってかれて、たまるか、よ!!! 必死になって影へ体を滑り込ませ、腕を伸ばして、重たい水をかき分けなんとか引き戻し抱き寄せる。 脚で必死に水の流れを振り払い、身体を浮き上がらせ、康史の顔を確認してあげさせる。 意識、ねえのか。 胸元に触れると、とくとくと響く心音がある。 水を飲む前に気を失ったのか。だったら、大丈夫、か? 焦りばかりが渦巻くが、冷静にならねーと、さっさと海岸に帰らねえとな。 島を目指していたはずが、助け出している間に潮に流されたのか、反対の方角にいるようだ。 海岸までもかなりある。 1番近い岸にあがるか。 俺は、康史の身体を担ぐようにして背中に負うと、近い小島のような岸へと向かい泳ぎはじめる。 バシャバシャバシャバシャと叩きつけるような雨までふりはじめる。 まずいな、泣きっ面に蜂かよ。 嵐でもきやがったら、かなり状況はマズイ。 あれほど、綺麗に見えていたグリーンブルーの水がどす黒くさえ見えてくる。 ようやく辿りついた岸には無人島と呼ぶには、小さすぎる島で木が疎らに生えているだけだ。岩場だらけで地面もあまりない。 満潮になったら、沈むな。 とりあえず、康史の体を横に置いて軽く胸を押す。 「ヤス、おい、ヤスッ、おい、めェ、あけろ!」 水は飲んでねえよな。 呼吸はしてっし。 スコールのような雨が身体をたたきつける。 俺は雨から守るように、康史の身体を抱きしめた。

ともだちにシェアしよう!