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【番外編】卒業旅行→sideY
夢をみているんかな、と、おもう。
しなやかな身体を水に溶けこませて、東流は流れを掻き分けて俺の方に手を必死に伸ばしてくる。
水の中で精悍な顔をゆがめて、まるで吼えるような表情。
俺も腕を伸ばしたいのに、体がまったくいうことをきかない。
その手を掴みたいのに、まるでいうことを聞かない。
海底からの冷たい流れが身体をまきこむ。
意識が再び、遠くなる。
おれも、オマエと、離れたくねえんだよ。
だけど……ッ、うごかねえよ。
涙が出て止まらない。
苦しい呼吸が、なんだか優しいあたたかいものに包まれ、楽になる。
ああ、死んだのかな。
俺は漠然とそうおもう。
大丈夫、海の底にたどりついたら、多分、どこかには流れ着くから。
もう、オマエの好きな顔は、保ててないかもしれねえけど。
もういっかい、あいたい。
ごめんね。
ごめん。
胸が痛いほど押されて、俺はかはっかはっと水を吐き出す苦しさに目を開く。
顔を覗き込むのは、会いたくて仕方がなかった東流だ。
「ヤス…………、全部はけよ」
背中をさすられ、咳き込みながら水を吐くと、苦しくて涙が溢れちまう。
全部吐き出すと、なんだか落ち着いてくる。
「…………ッおれ、おぼれ、…………た?」
「そうだな。まあ、あんまり沢山水飲んでなかったから、良かったよ」
なんだか、視界が暗い。
バシャバシャと雨の音が響く。
「雨止んだら、元の海岸に戻るからな。寒くねえか?」
落ち着いで聞こえる東流の言葉に、肌寒さを感じていてこくりと頷くと、がっちりとホールドするように抱きしめられる。
ああ、さっき感じた暖かい感覚は、これだ。
あの時、助け出してくれた、のか。
海流の渦に多分脚をとられて引き込まれたのだ。
「……ありがとう……」
暖かさに、息を深く吐き出し俺は胸元に頭を乗せる。
「バカ言うなよ。俺がオマエを守るのは当然だろ。怖かったか?」
背中を撫でられる感覚に、だるくて仕方がない身体を任せて頷く。こんなわけのわからないところにいるのに、東流といるってだけでなんだか安心してしまう。
「怖かった、けど、いまは、怖くない」
わしゃわしゃと髪を撫でて、東流は空の様子を眺める。
「…………スコールみたいなもんだから、もうすぐ止むからな」
宥めるような言葉に俺は何度もうなずいて、肌に触れる熱をずっと感じていた。
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