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【番外編】卒業旅行→sideT
雨が止むと、すぐに太陽が西の空に見えて、嘘のように綺麗な夕日が海を照らし出していた。
波も穏やかで、あんな渦潮が起きたこと自体が嘘のようにみてえだ。
俺は康史を背負うと、岩場からゆっくり海に入る。
「…………自分で泳げるよ」
康史が言うが俺はすぐに首を横に振る。
「どこに不調が出るかわかんねえだろ。いいから、俺の肩にしっかりつかまっておけ」
有無を言わせずそのまま泳ぎはじめ、最初のビーチへ向かって平泳ぎで泳ぎはじめる。
ゆるく水面を蹴って前に進みながら、背中に感じる康史の重みに、本当に持っていかれなくてよかったと心から思う。
太陽を背中にして、海岸へ泳ぎ着き腰までの深さになり、脚をつくと、俺の背中から康史がそっと離れる。
「いつになっても、お荷物、だよな。俺」
「…………ンなこたねえよ。……俺の背中は、オマエにしか預けないし。オマエが沈んだら、俺が死んでも引き上げるのが、俺の役目だからな」
振り返り俺は康史の腕を引く。
俺らを見つけて、バタバタと士龍たちが、駆け寄ってくる。
「遅いし!大雨降ってきたから、これから捜索隊頼んだほうがらいいかなとか心配してたんだよ!」
ちょっとめずらしく怒った表情をしている。
ある意味レアかもな。
「途中でよ、すげえ雨になったから、止むまで避難してた。ワリィな」
「ああ……まあ、無理して帰ってくるより、正解だよ」
士龍は俺の言葉に、すぐに納得して夕日を見やる。
「あそこより先は遊泳禁止だって言われて、もっと先に行くとか言ってたから」
「マジで?なんで?」
もしかして、そのせいか。
「なんか、渦潮のたまりって場所があってあぶなくて、死人が出たらしいよ。ホテルの人が言ってたから。大丈夫だった?」
「あー、それか。大丈夫じゃなかったかな」
康史は先に確認しておくべきだったとぼやいて、士龍の顔をじいっと見て、
「先に聞いてたりした?シロ」
「あー、うん。2人が泳ぎに行った時は忘れてたかな。まあ、無事で何よりだよね」
俺はちらっと康史を見て、士龍の顔をニヤッと見返す。
「シロ、腹でいい。1発だけ殴らせろ」
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