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出会い→sideS
「セージ、アレ……だ、アレが欲しい」
長谷川は、まったくもって無口な男だった。
無口というか圧倒的に語彙が少ない。
「ハイハイ、ドーゾ」
俺はポケットに入れていたミンティアを一粒くれてやる。
GWあけに思い切って俺は長谷川を起こして、ミンティアをあげてみた。
顔は怖かったがすごむわけでもなく、ただ眠たくなくなる方法が知りたいと言って来た。
名前なんだっけと聞かれたので、野口誠士と答えたら、嬉しそうにセージと呼んできた。
それ以来、俺らは下の名前で呼ぶ仲間である。
どうやら、別に勉強をしたくないわけではないらしいのだが、学校にくるまでの間に体力を使いすぎてしまうらしい。
どんだけ喧嘩を買ってきているのだろう。
「東流は部活はいんないのか」
「あーーーーーー、バスケに入ったけど、すぐ喧嘩しちまって、追い出された」
眠たそうな目で俺を見て、少し考えてからぼんやりと答える。
なるほどな、大会とか出るのに暴力沙汰の事件はご法度である。
「そっか、残念だな。いい体してるのに」
「やだぁ、俺の体が目的?」
ニヤっと口元を引き上げて冗談ぽく笑う長谷川に、ああこんな冗談言って魅力的な表情もするんだなって思い、ぷっと吹き出した。
「そーね。多分空手始めたら俺より上達しそうだしなあ。ホント喧嘩しないの条件をのめるなら誘いたいところだけど……できないだろ」
最後の問いかけは断定。
聞くまでも無い。そんなこと分かってるよとの肯定。
「そうだな。そーいうとこはセージは楽だな。俺にあーしろ、こーしろって言わない」
クラスの連中は、長谷川に相変わらずかかわろうとしない。
顔が怖いだけではそこまでじゃないのだろうけど、ヤクザの身内ってのが怖いのか遠巻きにしか見ない。
「無駄なことは言わないの。俺」
「そっかあ。そういうとこ、ヤスに似てる」
目を細めてよくつるんでいふ幼馴染を語る。
いつも幼馴染のことを語るとき、長谷川は笑顔である。
ってか、めちゃくちゃ好きなんだろうなと思う。
「あー、日高君だっけ。すっげえイケメンでモテモテで羨ましくねえの?」
「別に。ヤスの顔は、俺も綺麗で好きだからなァ。それに性格的に俺、あの顔しててもモテねえぞ」
暫く考え込んで、ぱっさぱさの髪をくしゃっとかき混ぜながら長谷川は答えた。
「そうだろうね。男としては、東流の顔の方がかっけえもん」
俺は精一杯ほめたつもりだったが、長谷川はうれしそうな顔はひとつみせなかった。
あんまりほめられたくないのかな。
日高の隣にいるせいで、そんなに目立たないがなかなかのイケメンだと思う。
表情の怖さがそれをすべて打ち消しているだけなのだ。
「ヤスはマメで優しいからね。だからモテんだよ」
「そりゃあ、伝授してほしいぜ」
幼馴染のことを絶対に悪く言わない。
絶対的な信頼感で結ばれた関係。本当に羨ましいと思う。
「あーさー、セージ。今週末、暇?」
少し考え込んでから俺に問いかけて、ちょっと期待したような目を向ける。
「あ、試合はないから、暇してるよ」
夏の大会の予選までは大きな試合はない。
「そっか、ヤスと隣の市まで買い物いくから一緒にこねえか」
二人で一緒にお出かけのとこに、いいのだろうか。
まあ、男二人のところに、遠慮もないとは思うのだが。
「いいけど……邪魔じゃねえ?」
「なんで?オマエの履いてる運動靴、すげーいいなって思って。どこで売ってるか教えてほしいんだよね」
へっと歯を出して笑う姿に、そんなとこみてたのかと不思議になる。
外に一緒に出たことなんてあんまないのに。
「体育の時さー、オマエダントツ一番だったじゃねえ」
「体育、オマエいつもサボりだろ?」
「屋上から見てたんだよ」
口元を緩める笑みは、不敵でそして魅力的な王様の表情だ。
そして命じる。抗えない口調で。
「つれてけよ」
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