26 / 405
出会い→sideS
「へえ、トールがダチ連れてくるなんて珍しいな」
面白がるように日高は、長身特有の見下すような視線を俺に向けてくる。
周りが振り返るような美少年というのはまさにこいつのことだろう。
現に、いろんな人の視線が日高へと集まってきている。
っていうか、言葉尻にも視線にも普通に険があって、ハッキリ俺が気に入らないと顔に書いてある。美少年のキツイ視線ってのはあんまり受けたくねーけど、どんだけ日高は東流に対して独占欲強すぎじゃねーかと感じる。
口調も警戒心がバリバリで、人を推しはかるようなものであまり好きじゃないなと思う。
「そうなの?俺、野口誠士、日高くん、まあ、ヨロシク」
あえてそれには気づかない振りをして、普通の態度で返すと、ちょっと目を見開いて俺を見て日高は口の端っこだけでくっと笑う。
様子を伺うように、俺の態度と様子をじっくり眺める。
「知ってるよー。野口君。1年なのに国体に出た空手の猛者でしょー」
首をかしげて、表向きチャラいなあと思える柔らかく見える笑顔を向ける。
八方美人で、世渡り上手。
東流とはまったく正反対。幼馴染以外の接点はなさそうなのにな。
「誠士でいいよ」
東流は、ポケットに手を突っ込んでガムを噛みながら俺たちには構わず歩き出す。
「誠士ね、よろしく。俺のことは康史でいいよ。まあ、国体にでるくらい強ければ大丈夫だよな」
やや東流の後ろを歩きながら、康史は横目で俺を検分する。
何が大丈夫って、喧嘩のことだろうか。
二人でいるときは大抵喧嘩しているというウワサである。
「ん、ヤス。セージは喧嘩しねえよ。そういうオキテだ」
1番前を歩きながら振り返りもせず、のんびりとした東流の声がする。
俺は家庭の事情と、将来警官になるという夢のため、暴力沙汰はおこせないと東流に語ったのだ。
語ったところ、それがオキテなんだなと、東流は理解してくれた。
「オキテだァ?!ぶっ、何それ、トール、なに、忍者?!」
オキテという言葉にやっぱりひっかかったのか康史は東流の背中をバンバン叩いて突っ込みをいれる。
「親父さんが刑事さんらしいぜ。だから、喧嘩とかしちゃ駄目なんだってよ」
「あー、なるほど。それでオキテね。ふうん。じゃあ、逃げるの早い?」
俺が答えるより前に、ぼっそぼっそと低い声で東流が代弁してくれる。
いつも無口な東流は、康史の前ではずいぶんと普段よりは饒舌である。
なんだか不思議だ。
「はええよー。セージは俺のクラストップだぞ、100m10秒台出してたし」
俺のことなのにまるで自分のことのように自慢する。
なんだか……。
可愛らしいなと思う。
「なんだ、それで同じ靴ほしくなったの?トールは安直だよな、靴だけで走るの速くなるわけないじゃん」
「だってよ、同じの欲しい」
康史と会話する東流ら素直なんだか、アホなんだか不思議なやつだなという印象を受ける。
無口で怖いという周りの印象はまったくない。
ちょっと面白いものをみたような感じだ。
「逃げ足速いなら安心した。喧嘩になったら、即逃げろよ。国体の技もみてえから残念けど」
康史は俺を向いて、にっと快活に笑って見せる。
イケメンでスカしたやつかと思っていたが、案外、歳相応なヤツっぽい。
女にモテモテなイメージだけど、まったくそんな雰囲気がない。
「そりゃ、破門になっちまうからよ。とっとと逃げさせてもらう」
笑いながら返すと、意外そうな表情で康史は俺を見て頬を緩めた。
「いさぎいいな。口だけ加勢するっていうやつより全然いいや」
「な、ヤス。いいやつだろ」
へへーとやっぱり自慢げに言う東流は、普段より本当に無邪気に見える。
なんでこんなヤツをみんなはあんなに怖がっているのだろうか。
「まーな。トールが気に入るだけあるな。」
「道場来たら、技くらいいくらでも披露してやるけどな」
「東流戦ってみたら?」
康史は興味をもったのか、俺の肩をとんとんと叩いてくる。
「喧嘩しかしらねえしなあ。普通にぶん殴るとかならできるけど」
「普通に東流にぶん殴られたら、俺普通にぶっとぶんじゃねえかな」
遠目で東流の喧嘩している様子をみたことがあったが、異常なスピードと強さだった。
普通に空手をしたら、多分東流のスピードには勝てない気がする。
「ははは、強ぶらないとこもなんかいいなあ。国体ってすげえって聞くのになあ。いつもはトールを利用しようとするやつらばっか連れてくるから、大体俺がぶっ飛ばして追い払ってたんだけど」
「へえ、なんで?」
利用してると皆に思われてるってのに、逆に追い払ってたのか。
イケメンどころか、とんだオカン体質の男である。
守ってもらってるって感じではないのである。
「トールはアホだからさ、騙され易いんだよ。今回、クラス離れちまったから心配してたんだけど、誠士がいるなら大丈夫そうだな」
苦悩の表情を浮かべる様子から、よっぽどの目にあってきたのかなと思う。
だとしたら、最初のあの警戒も頷ける。独占欲というより心配性なんだな。
幼馴染っていっても、そんだけよく献身的にできるなあと逆に尊敬する。
「怖がられて、俺くらいしか近づかないよ」
康史を安心させるように言ってやると、不思議そうに東流が振り返る。
「セージは何で俺に声かけてくるんだ?」
不思議そうな顔。別に、周りにどう思われていても気にしていないようだ。
傷ついた表情すらしない、声かけてくるのが不思議だなという純粋な表情。
「別に。トールが悪いやつじゃないからだよ」
「なんでわかんの?」
首をかしげてぱっさぱっさの髪を揺らす。
「ンー、未来の刑事の感ってやつでしょ」
そんなの理由はないじゃない。
イイヤツはイイヤツじゃないかな、そんだけだ。
それは、今でも変わってはいない。
ともだちにシェアしよう!