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逃避行→sideT

な……んか、体がふわふわしてきて、下半身が熱い。 やべえ、こりゃクスリか………な。 蹴飛ばした男をとどめとばかりにふんずけて、くらくらする頭とフラフラしてくる体を叱咤して、駅に向かって気合いで走り出す。 それでも、身体のキレは戻らず、追いつかれて次々に殴りかかってくる男たちを何とか地面に沈めながら必死に前に進む。 息があがっててとてもじゃねえが走れる状態じゃなく、群がるように周りを囲まれる。 ちくしょ、うぜってえな。まあ、ぶちのめせば……問題ねえ………。 本能的に襲いかかってくる男たちをなぎ倒し、動けないように急所を狙って拳を打ち込む。 く、そ、熱い……。 ガラガラに喉も乾いてくる。 体が煮えたぎるように熱くて仕方がない。 「トール、トール!!……ちょ、どうした……具合、わりいのか」 合流地点にはまだ遠いのに、追いかけてきたのかすぐ近くで康史の声が聞こえる。 康史は周囲の男達を軽やかに投げ飛ばしつつ、俺の様子に慌てて腕をとって引くと、路地裏へと逃げ込む。 「ッは……クスリ……かがされちまった……」 俺は康史の肩にぐっと掴まって、収まらない下半身を奴の太腿にもどかしげに押し当てた。 カッコ悪ぃ………な…。 「トール………、…………予定変えて今日はオトナの遊園地いこうか」 耳元で囁く声は、誘うようにひどく掠れて欲情に溢れている。 俺も我慢が利かないので、康史の背中に腕を回して素直にこくりと頷いた。 「強いクスリみたいだな、トールすげえエロい顔してる。こんな顔、他のやつに見せたくねえな」 康史は、俺の腰を抱いて路地裏の店の間の隙間に押し込んだ。 「1時間待ってて。俺を怒らせた馬鹿なオニイサン達は全部俺が片付けてくっから」 「バッ………か………ひとり、じゃ、やべえって」 「あと数人だろ?あらかたトールが片付けてたじゃねーか」 拳を握って康史は、ぱたぱたと駆け出していく。 情けねえけど………下半身からあがってくる熱で思考回路もうまく動かなくなっている。 頭は今すぐにでも擦って吐き出したい欲望でいっぱいだ。 早く帰ってきてくれ…………康史。 辛抱がたまらなくなって、俺は腰をかがめて蹲った。 時間が過ぎるのが遅い気がする。 数人だというし、康史なら大丈夫だと思うが不安でたまらなくなってくる。 ちくしょ、無理にでもついて行けばよかった。 「………トール、おまたせ」 待ちわびた康史の声に顔をあげると、ツインテールでパンツルックの美少女が俺に向かって腕を差し出していた。 え…………。 ………ヤス? 「男二人だとさすがにラブホに入ったら目立つし、着替えてきた。遅くなって悪いな。でも似合うだろ、俺」 差し出された腕をつかみ、マジマジとモデルのような可憐な姿に息を飲んだ。 可愛いなんて生易しいもんじゃない。 「……かわいい……」 ぼーっとした頭のままようやく呟くと、康史は俺の腕を掴んだまま路地裏を出て腕を絡めてくる。 「俺のトールに恥はかかせねえよ。あー、ホントメロメロって顔してんな、可愛いのはトールのほうだぞ」 俺の腕に掴まるように甘えた仕草で歩く康史が、本物の女の子のように錯覚しそうになる。 康史は、駅前のこじゃれたファッションホテルへと俺を引っ張りこんで中へと入る。 綺麗な内装で結構な値段しそうだ。 「ここがオトナの遊園地」 壁にかけられた部屋の中から、いろんな器具や馬などが並ぶ部屋のパネルをトールは押して、受付で慣れたように手続きをする。 俺の方も結構限界に近い。 息が荒くなって、視界が狭くなってくる。 じんじんと体が痺れる。 「……ヤス、おれ……もう………やばい」 康史は、ツインテールを揺らして花のような笑みを俺に向けて、腰を抱き寄せると 「そんな顔されたら俺もヤバイ。はやく、部屋いこう」 女装の康史にエスコートされ、エレベーターに乗せられ部屋へと向かった。

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