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恐れていること→sideT

「やっぱり怖がってくれないな。トールはどうしたら怖がってくれんたわろうな」 微笑みながら、俺の体にベルトを巻きつけ、シャワーフックに鎖をかけて拘束するヤスをみあげる。 こいつはなんで俺をびびらせたいのだろうかと、疑問に思う。 夏に冷房が切れた時ことを思い出すと、多少は不安だが、不思議とそこには恐怖感はない。 恐怖におののく姿を、見たいというキモチがサディストにはあるのかもしれない。 そう考えると、あまり恐怖感を覚えたことがない自分は彼には不向きなのかもしれない。 俺は何が一体怖いだろう。 さっきは、ヤクザを相手にして死ぬかと思ったが、怖くはなかった。 約束を守らなければいけないのに、という、康史への詫びくらいしか思いつかなかった。 「そうだな…………オマエに捨てられたらって思うと、怖い」 ようやく考えついて口から出た言葉に、康史はごくりと息を飲んで、俺をじっとみつめて首筋を朱色に染めた。 あの時も、それが怖くて逃げられなかった。 康史の顔は照れてるんだなと思うが、その姿が本当に可愛らしい。 「だから天然って、嫌なんだよ。…………殺し文句言いやがって。もー、じゃあ絶対、一生怖がらせられねえじゃん」 M字開脚のまま固定して、ヤスは俺の腹部にできて腫れ上がっている痣を、優しい手つきで何度も撫でる。 「ちょっと洗うね」 拘束した体を起こすようにもちあげて、お湯の温度を調節して適温にすると、ゆっくりとシャワーをを俺にかける。 ふわりとした暖かさに身体が楽になってくる。 スポンジにボディーソープを垂らして泡立ててから大切なものを扱うように洗い始める。 俺にだけ向ける、優しい表情が好きだなと思う。 「今日さ、…………予備校抜けて来てくれてアリガトウな」 あの時、康史がきてくれなかったらそのまま意識戻らずぶちのめされていた。 今頃病院が悪くしたら売り飛ばされていたかもしれない。 康史の声に、守ってやりてえって思う本能が、俺の意識と体を動かした。 ガキの頃から染み付いてしまっている本能。 「何言ってるんだよ、当たり前だろ」 髪の毛を洗いながら、康史は覗き込んで微笑を俺に向けてくる。 「大事な勉強中なのによ。でも、ヤスきてくれねかったら、潰されてた」 邪魔してしまったなと思う反面、きてくれなかったら本当にどうなってたかわからないなと思う感謝があふれ出る。 「でも勉強してるンだって……トールと一緒にいれるようになるためだし。ここでトールを無くしたら、本末転倒だろ」 歯切れ悪く言葉を募らせるヤスに、俺は首をかしげた。 康史が勉強することで一緒にいられるというのはどういうことだろう。 「どういうこと?」 「めっちゃエリートになって、トールを俺のとこで鎖につないで一生飼ってやるんだよ」 康史らそう言うとシャワーを止めて、綺麗になった俺の体を背後から抱えるように抱き寄せた。 飼ってやる……か。 犬猫ペットのように俺を飼うってことなのだろうか。 ペットなあ……なんかそれは違うだろ。 「ヤス、………飼うとか意味わかんねーよ?ンなことしねえでも、一生一緒にいてやっからよ」 たんなるペットじゃ俺は満足できない。 多分、ペットのように甘やかされて触られていじられて、キモチいいかもしれないけど。 俺のプライドとか元からどーでもいい。 そんなの気にしたことはまったくない。 だけど、ペットじゃ満足できないのだ。それは伝えなきゃいけない。 「ずっと、トールと一緒に住んで、一緒に暮らしたいんだよ。俺は。だから支配したい」 俺の首輪を撫でて、求めるような目で見つめる。 一緒に住みたいって、暮らしたいなら……アレだろ。 それは飼うとかいう言葉じゃないはず。 「支配はいい。でも……飼うとかはイヤだ。言い方あンだろ」 「言い方ね……何?…………性奴隷?」 康史は心底分からないといった表情で俺を見つめてくる 思いつかないのだろうか。 元々ロマンチストだったはずなのに、SM脳にきっと犯されすぎちまってるんだろうな。 不憫になるが、性癖なので仕方ねえだろう。 「性奴隷は、まあ言い方よくねーけど、プレイならいい。オマエの好きなプレイはなんでもしてやる。オマエが犬になれって言うなら、犬にでもなんでもなってやる。でも、俺は、飼われない」 いちゃいちゃでラブラブ希望って自分から言ってきたのにな。 まあ、性奴隷とかSMとかが好きなら、なんでも付き合ってやる。どこまでも付き合うことは俺の中で折込み済みだ。 だから恐怖とかはまったくない。 だけど、生活や人生までそのSM脳には付き合えない。 「はァ………もう、オマエがいわねえなら俺が言うからな。いいか?」 「飼うのは、ダメなの?」 あくまでも、そこにこだわっているようだ。 「ダメだな、ヤス」 俺は自由にならない体で唯一自由になる視線を強く康史に向けた。

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