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お迎え男→sideT
勝手知ったる様子で、だんだんだんと階段を駆け上ってくる音がする。
この時間には親が居ないのも、全部分かってるのだろう。
勿論、普通に家宅不法侵入だが。
バンッと、迷いなく勢い良く扉が開く。
「迎えにきた」
そこには息を切らせて、肩を上下させる康史の姿があった。
思いっきり首筋に手刀を叩きこんでオトしたのに、結構早く気がついたもんだなあと思いながら、俺はゆっくりと立ち上がる。
「…………帰りたくねぇ」
出てくる前も俺の発言に何か怒ってたし、あの続きをされるのもイヤだなと思って、思わず首を振って拒絶を口にする。
「……駄々こねるなよ…………トール」
諭すように腕を掴まれて、ぐいっと手を握られる。
「ヤス、怒ってねえ?」
俺は、握られた手をおずおずと軽く握り返す。
離すことはしない。
「怒ってるよ」
言葉とは裏腹にちょっと表情を緩めて、ふっと吐息をついて俺を優しい顔で見返す。
怒っているようには見えない。
弱気になっても、俺の弱みはきっといつだって、コイツだけだ。
「じゃあ、帰らねえ。だって…………オマエさ、お仕置きとかするだろ」
ぼそっと呟くと、康史は俺の顔を上目遣いに覗き込んでくる。
この甘えるような仕草や表情に、昔からずっと俺は弱い。
「…………しなかったら、帰る?」
「オシオキはイヤだけど……な。…………滅茶苦茶にはされてえ」
耳元で囁くように告げた俺の腕をぐっと掴んで、康史はぐっと腰を抱いた。
「おい、ちょっとそこのバカップル、オレの部屋で堂々とイチャイチャすんなって。ヤッちゃんも、しっかり首輪つけといて、頻繁に戻ってこられたら、邪魔だから」
西覇は嫌そうな顔をして、しっしっと追い払うように手を振る。
「ゴメンネ。西覇。じゃあ、コレもって帰るんで」
康史は俺をモノ扱いして、腕をずんずん引いて部屋を出る。
「すえながーく、お幸せにー。もう帰ってくんなよ、アニキ」
上機嫌な西覇の声が聞こえたが、滅茶苦茶にとか言ってしまった手前何されんのかなと、不安を覚えつつ家を出る。
「電車できたから、…………オマエのタンデム乗せて」
そして、康史のバイクのタンデムシートに跨った。
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