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傷痕と不審感 →sideY

「今回、東流たちが病院送りにしたのは、東高の2年の金崎のグループだ。前も言ったけど、今の東高のトップは3年の小倉派。でも、小倉派が最大ではなくて、最大派閥は2年の真壁派。こいつは、停学くらいすぎて留年してるから、小倉より強いって話。報復にくるなら、小倉か真壁かだろ。真壁が声かけたら200人は動くらしいけど」 200人動かすとか、軍隊かよ。 誠士の話を聞きながら、とりあえず俺はひとり行動を絶対にするなと釘をさされた。 小倉はよく絡んでくるので、知っている。でけえオールバックのボスと、糸目の司令塔がいる。 金崎のことは聞いたことがない。一年前は普通の1年だったのか。 真壁の話はよく聞いたが、何故か出くわしたことは無いし、奴のグループというやつらは、俺らに絡んでくることはなかった。 「真壁に囲まれたら、さすがに勝ち目ないな」 「真壁は穏健派らしいよ。アッチに絡んでいかなきゃ、報復すらしないらしいし。学内は真壁のおかげで、以前にないほど平和らしい」 穏健派で本人は停学くらいすぎ、とか、わけがわからない。 東流といえば、進学じゃなくて運送会社に就職するらしく、こないだから教習所に通い始めた。 だが、俺が1人になるのをひどく警戒して、誠士を呼んでみはらせている。 「報復なー。珍しく、トールが慎重だな。そんなに危ない目にあったの?俺は」 探るように誠士に問い返すと、誠士はふと笑い、 「そりゃ、別行動の時に襲われたんだし。慎重にはなるんじゃねーか。あと、2年のグループで富田と内添ってのがいるけど、内添は金崎と反発しあってるから報復はしないだろうから、富田あたりに気をつければいいかな。富田は、武闘派で赤い猛獣って言われてる」 誠士の空手のダチで、そっちの高校の話に詳しいやつらがいるらしい。 「なあ、俺とトールっていつ付き合い始めたの?」 「夏休みだな。そっからは、もー、暑苦しいくらいのバカップルだな。お前に片思いしてた小西さんがアウティングしちまうから、クラスのヤツらにも知られてるし」 「小西さん……?あの美人な?」 学年で一番美人と言われている女だ。波砂も綺麗だが、波砂は少しキツメな美人だが、小西はやわらかい雰囲気をもっている。 「モテ男はつらいよね。まあ、オマエが小西にカムアウトしたせいだからな」 「トール、怒らなかったんだ?」 東流は周りにバレて怒る性格でもないけど、いい気分はしないだろう。 「あー。ねーだろ。俺が康史とつきあうのに文句あるヤツでてこーいって、カムアウトでかぶせたらしいし。まあ、アイツのそーいう潔いいいとこは、好きだけどな」 文句言おうもんなら、ぶっ飛ばされるだろうし、と誠士は続けた。 記憶はまったくない。 だけど、確信していることがある。 手首と足首の傷痕、体に残っていた倦怠感。 東流のペニスに刺さっているピアスをみて、それは確信に変わった。 東流には俺を抱けない。 そして、多分抱いたことは1度もないだろう。 誠士も、東流も俺に隠しごとをしている。 そして、いくらカマをかけても言う気はなさそうだ。 誠士に聞いても、うまく言葉ではぐらかされるのは分かっている。 あの日、本当は何が起きて、俺が記憶をなくしたか。 なくしたわけじゃない。 俺は卑怯だから…………自分できっと消したのだ。 だから、もし聞くなら、東流にだ。

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