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第30話 販売終了のお知らせ。 4

店員に『今すぐに着替えたいから』と伝え、叶と俺の二人でフィッティングルームに入り込んだ。 「杉原先輩……何か企んでますよね?」 「企む?失礼だよぉ、叶」 俺は慰めたいだけ。 でも…正直に言うと手も出したい。 だからあながち間違いでもないんだよね。 叶に早くタートルネックのシャツを脱ぐように言うと、叶は顔をリンゴのように赤くして、 「先輩、…反対向いてください!!」 可愛すぎるその反応に俺は堪らない!! 「今更何恥ずかしがってるの叶。もっとイヤラシイこと沢山してるのに」 俺はわざとらしく明るく言った。 正直元気付けてるし、叶自信もそれに気付いていると思うから俺はわざと反対なんて向かないで背中から抱き締めた。 「…そんなにあのシャンプーじゃなきゃ、ダメ?」 俺は出来るだけ叶の耳元で甘く囁いた。 「……思い出なんです」 「そっか…ごめん。リンゴは『叶の匂い』なのにね」 俺は間に受けた『叶のリンゴのシャンプーでなくても髪は洗える』という言葉。 叶に取っては俺が考えてたことより凄く大切なことだったんだ。 俺は叶の髪の匂いを香いだ。 甘い……甘い、アダムとイブが禁断の果実だと知った上で気になり口にした『リンゴ』、その匂いだと思うと叶まで禁断の果実のような気になる。 いや正に叶は禁断の果実だ。 女も男も狂わせるのだからきっとそうなのだ。 (叶も俺も狂ってるんだ) 過去に囚われて、それでも俺は叶の現実と未来も考えてるつもりだけど、違うのかもしれない。 だから俺は卑怯な手を使う……キミを元気にするためなら手段なんて選ばないよ。 「叶、『リンゴ』と『杉原 俊』どちらが大切か選んで」 俺は鏡の中の叶と俺を見た。 「……え?」 「選んでよ」 この質問は叶にとってはかなり酷だろう。 叶の『祖母ちゃんの大切か選んで思い出』と『今恋人として付き合ってる俺』を天秤に掛けているのだから。 でもこれで『リンゴ』なんて言われたら……潔くリンゴのシャンプーでも探そうじゃないの。 そうこの一瞬で考えたことで、悩まられるだろう思ったら、鏡の中の叶は悲しそうな顔で、 「私は『杉原 俊』先輩が『一番大切』で『大好き』だと言ってますよね。……信じてくれていないんですか?」 あ……これは失言かもしれない。 「ごめん、そうじゃないんだよ。叶がね辛そうだから…少しでも慰めたくて」 俺は叶を包み込むようにきつく抱き締めた。 困らせるつもりなんてなくて、俺はむしろ笑顔が欲しかった。 でも……それでも、 「じゃ『俺がイチバン』だと思って良いんだよね?」 「『杉原 俊先輩以外の一番』はあり得ませんから」 少しだけムッとした叶がそうしっかり断言してくれて、好きな子にそこまではっきり、こんな狭い場所で言われたら、下半身が抑えきれなくなってきた。 「叶、脱がせるのも着せるのも俺がしてもいい?」 俺は耳にキスをしながらそう言うと鏡の中の叶はリンゴのように赤くして、 「はじめから……こうなると思ってました」 「……光栄だね」 要するに『期待』しちゃっていたということだよね。 ごめんね、俺がこんな『イヤラシイ子』にして。

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