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第23話 キミと姫初めへの道程。 8 『初失言』
ふらふらの叶をなんとか俺の実家『清水』に連れて戻ったのは15時で、俺は18時から最後の『茶の席』の準備に取りかかった。
叶は和服……というか日本のわひさびが『好き』だからか、俺が準備に取りかかったとたんに元気になっちゃってた。
「杉原先輩、その胸元に入れたのはなんですか?」
「『ふくさ』だよ。まぁ、茶道のハンカチみたいなもん」
こんなもんで元気になっちゃうんだから、叶本当に御曹司?
かなり安上がりじゃんか………。
「実は私……お正月ですから先輩は初詣、着物で来てくれるのではないかと期待してしまっていたんです。……ごめんなさい」
それは少しだけ思ってたことだし一応は悩んだんだよね。
でもこんな目立つ叶と俺まで目立ったらなにがあるか分からないから止めておいたことは言わないでおくことにした。
「そんなに着物が良いなら貸してあげんのに」
俺がそんなこと漏らしたら叶は切なそうに笑って、
「やめておきます。『好き』なものと『自分に似合うもの』は違いますから」
「そうかな?俺は着たきゃ着れば良いと思うけど?」
「……実は着たいです」
「叶くんが着たら七五三みたいで可愛いんじゃない?」
光さんが湧いて出てきた……。
「……やっぱりやめます……」
叶が元気になったのに、しょんぼりしちゃったじゃん!!
「叶、光さんは空気だと思っていいよ」
俺は正月はひたすら光さんは無視することにしている。
この人は不幸しか呼ばないから。
「叶くんなら打掛だけ着てれば、俊も喜ぶんじゃない?」
「叶に着物の変な使い方吹き込まない!!」
「……先輩、打掛ってどんな着物ですか?私にも似合いますか?!」
「叶は光さんの言うことは真に受けちゃダメだよ……」
「だってさ、洋服はズルいじゃなーいん?彼シャツとかあるのに和服も合ってもねぇ」
もー……また『姫初め』だけじゃなくて『打掛』まで祖父ちゃんに聞いちゃうよ!!
ただでさえ叶の家族に良い印象持たれてないんだから、俺の立場が危うくなる失言はやめてほしいよー!!
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