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第5話
山小屋に行くには、井戸を背にまっすぐ歩いたところの獣道から山へ入る。そうしたら、根元に×の傷がある杉の木がある。それを5本ほど過ぎると、庭にある御影石と同じ石が1個埋まっている場所が出てくる。その石を右に過ぎると徐々に木々が少なくなり、日の当たる場所が出てきて、そこに小さな山小屋が建っていた。
山小屋は庄一の曾祖父が作ったものだった。父と祖父は植物などに興味がないが、庄一が10歳の頃まで生きていた曾祖父は、植物を愛していた。そのため、よくこの裏山に一緒に来て植物を採取し、この山小屋で名前を教えてくれた。
ここは、庄一の聖域だ。
大好きな植物に囲まれ、大好きな曾祖父との思い出が残る大切な場所だった。だから、嫌な気持ちに自分が押し潰されそうになった時には必ず来て、気持ちを落ち着かせるのだ。
しかし、既にそこには来客が居た。
金の髪の少年が、両手いっぱいに花を抱えて扉の前に立っていた。
昨日見たと思しき獣耳も尻尾もなかった。あれは単なる目の錯覚だったか。庄一はホッと息をついたが、そうするとこの少年の意図が分からず、とりあえず声をかけてみることにした。
「…君…?」
「!?」
ビクッと華奢な体が飛び上がる。その瞬間、ニュッと獣耳と尻尾が少年の体から生えた。昨日見たものと同じ光景にとうとう庄一は混乱した。少年が逃げようとした瞬間、バタンとその場に庄一は倒れていた。
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