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第6話
「ん…?」
鼻先にさらさらとしたモノが触れ、くすぐったさに庄一は目を覚ました。すると、そこには大きな金の瞳が二つ、庄一の鼻先に髪が付くくらい近くで顔を覗き込んでいた。
「うわ!?」
「ひゃっ!?」
お互いに素っ頓狂な声を上げていた。慌てて起き上がると、そこは山小屋の中だった。なぜ自分が小屋の中に入っているのか一瞬分からなかったが、すぐに庄一は外で倒れたことを思い出した。
私有地にある小屋のため、鍵は付けていない。きっとこの少年が自分を小屋に運んでくれたのだろう。
驚いて怯えている少年は、部屋の隅へ逃げていた。
「えっと…あの…ありがとう…。君が俺をここに入れてくれたんだろう?」
庄一の言葉を聞くと、急に少年の目が大きく見開かれて丸くしていた。そうして、少し遅れてコクコクと頭を上下に振った。
「それと、柿とか茸とか、あれも君が置いたんだよな?」
再びコクコクと頷いたかと思うと、パッと扉の外に少年が行ってしまった。また逃げられたと思い、ガクリと庄一は頭を垂らした。しかし、扉が開く音がすると耳と尻尾を出した少年が花を両手いっぱいに抱えて持って近づいてきた。そして跪くとその花―――ニホンズイセンを、庄一の前に差し出してきた。
「ボクを助けてくれて、ありがとう」
その声は、風のように涼しげで、水のように透明だった。
少年、否、少年に化けている狐を見ると、彼は満面の笑みを湛えていた。
木々の隙間から漏れ出る光によりきらきらと光る金の髪に、大きな金色の瞳、透き通った白い肌は血管が見えるくらいで、冷えた冬の空気の中では、頬が赤く染まっていた。ピクピクと動く頭の上に生える耳が、なぜか不自然に見えなかった。
庄一は初めて、人の形が美しいと思った。
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