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第7話

 少年は、想像したとおり、少年ではなかった。100年以上生きている化け狐なのだと、明かした。 「この前、ボクを助けてくれたから、どうしてもお礼がしたかったんだ。でも、この姿を見るとヒトは怖がるし、コワイことをしてくる時もあるから、だから、黙って食べ物とかを置いてたんだ」 庄一は黙って、狐の言うことを聞いていた。 既に目の前の現実があり得ないとか、自分の頭が可笑しくなったとか思わなくなっていた。 確かに夢物語のようだが、ここ数日頭を悩ませていた出来事に対して、全て納得がいく話だった。 狐は情が深いと言う。 本当にそうだったのだと、目の前の美しい生き物を見て、しみじみと庄一は思った。 「それで、食べ物は食べてなかったから、今日は花にしてみたんだ。この小屋の中にはいっぱい花とか木とかの欠片があったから、きっと好きなんじゃないかと思って…」 何も言わないでじっと見つめている庄一に対して不安に思ったのか、狐は必死になって今までの経緯を喋っている。耳と尻尾がシュンと垂れ下がっているのが愛らしい。 庄一は自然と表情を緩ませていた。 「すまなかったな。食べ物は誰が何の目的で置いたか分からなかったから、食べなかったんだ。そういう理由だったのなら、とても嬉しいと思うし、食べなかったのは悪かった」 ようやく喋り出した庄一に嬉しくなったのか、パッと耳と尻尾が立ち上がる。どう考えても15歳くらいにしか見えない幼い顔が明るくなるのも庄一にとって心地よく、自然と饒舌になっていた。 「…俺は花が好きだから、この花も嬉しいよ。ニホンズイセンなんて、この山にあったんだな」 「うん!あっちのもっと奥の方にあるよ!そうだ、場所を教えようか?」 「いいのか?」 満面の笑みで、少年の格好をした狐が頷く。 「じゃあ、よろしく頼むよ、えっと…そういえば、君の名前は何だ?」 「なまえ?…ヒトからは『きつね』とか『ばけもの』って呼ばれたことはあるよ?」 「えっと、そういう種族の名前ではなくて、個々を区別する方の名なんだが…ちなみに、俺は庄一って言うんだ」 「しょういち?『ヒト』じゃないんだね。じゃあ、そういう『なまえ』はボクにはないよ」 「…それもそうか」 飼われている動物でもあるまいし、野生の化け狐(?)ならば、確かに名前はないのかもしれない。しかし、会話をするにも名前がないと色々と厄介だ。ふとニホンズイセンの花が目に止まった。 「…俺はセンスとやらがないんだが…じゃあ、『スイ』と呼んでもいいだろうか?」 「すい?」 「『水仙』の『水(スイ)』だ」 「この花と同じなまえってこと?ステキだ」 植物の名前を、何かに付けるのは嫌いだった。けれど、目の前の生き物には、自然と付けたいと庄一は思った。

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