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第10話

 スイと会えなかったのが相当応えたのか、家に戻ってから庄一の気持ちは穏やかではなかった。それなのに、藤乃は何度も声をかけてくる。さらに、風呂から出て寝室に敷かれた二つの布団を見て、庄一は愕然とした。いつもよりぴったりとくっつく布団に嫌気がさす。 少し遅れて寝室に来た藤乃の横を通り過ぎながら、「今日は自室で休む」と言って、向かいの部屋に逃げた。 本と資料の散乱する6畳間の真ん中で横になる。 (どうしてあの女はああなんだ?俺の気持ちも分からず話かけてきて、あんなはしたない真似が出来るんだ) スイだったら、そんなことはしない。 動物の勘があるのか、庄一の心を敏感に察していた。心地よい距離と間が、二人の間にあった。 (スイが、嫁だったら良かったのに―――) 自然と出た考えに、庄一はハッとし、口元に手をやった。昼の山での考え事といい、今日はおかしい。会えなかった時に、スイのことを考えすぎたのか。 けど、と庄一は思った。 もしも、本当にスイが自分の嫁で、あの二つ敷いた布団の上に居たら、どうなのだろうか。 夜の暗闇は、妄想を増幅させる。 あの華奢な体を組み敷いたら、どんな感じなのだろうか。

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