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第3話

 老人の言った通り、手紙には山で男が消えることへの調査指令が書かれていた。 村を背にして半日ほど歩くと隣町に行くための山道に入った。指令によると、この山では珍しい動物が見られ、よく密猟に男達が入っているらしい。密猟だったため、男達が消える話は大々的に周知されてこず、調査が遅れたようだった。  フィオレオはガットの後ろを歩いていた。 木漏れ日が、ガットの艶のある黒髪を照らす。今日も素敵だなとフィオレオはうっとりとガットの後ろ姿を見つめた。  少しくたびれた白のYシャツにサスペンダーでキャメル色のズボンを履き、ダークブラウンのブーツ、腰には銃の入った革製のフォルダーを付け、勇者にしては簡易な格好だが、ガットがすると何故かとても格好よく見える。細身だが、引き締まったスタイルのいい体躯がそう見せているのか。それとも、常に気だるそうな雰囲気から醸し出される色気のせいか。  黒地に緑の紋様があしらった魔法使い用のローブを羽織っているのと杖以外は、フィオレオもガットと同じようなシンプルな格好だ。着こなせていない訳ではないが、ガットのような格好良さはない。ヒョロッとして少し頼りなさげだ。せめてもの救いは、この国だと憧れとされる金髪に碧目であることと、ガットよりも長身であることだ。 しかし、金髪は癖毛であり、コンプレックスは尽きない。  フィオレオにとって、ガットはパーティーのリーダーであり、5歳上の頼りになる憧れの人であった。 性に対してやや(?)だらしない面はあるが、勇者としての潜在能力が高く、レベルもこの年にしては高い。飄々としていて、気まぐれで猫のような性格だが、要領が良く、何でもさらっとこなしてしまう。自分とは正反対の人間だ。 そして、鈍臭い自分を認めて、仲間にしてくれた人。 憧れと感謝は、一緒に旅をする内に、いつの間にか好意に変わっていった。 フィオレオはガットのことが好きだった。 回復のためではなく、ガットを恋人として抱きたいと思っていた。 けど、今の弱いフィオレオでは、ガットに不釣り合いだ。釣り合う日が来るか、正直、自信はないが、せめて一人前と言えるレベル20になったら、ガットに告白したいとフィオレオは思っていた。 「大分、奥に来たな」 手紙の地図と周りを見ながら、ガットが言った。 「そうですね。やっぱり、密漁ってなると人があまり入らないような奥の方になるんですかね」 木々が鬱蒼とした場所に来ていた。もう少し行くと洞窟があるはずだ。 「にしても、何の気配もありませんね?」 「…ああ、虫や動物の気配さえしない」 シンとした気配に、ガットの足が止まる。静かな場所というよりも、静かすぎる(・・・)|。山にいるはずの動物たちの息遣いが全く感じられない。まるで、何もいないようだ。 おかしな雰囲気に、普段はやる気のない切れ長の金目が、注意深く周囲を見やる。 フィオレオも危険を察知しようと、魔力を拡散させようとした瞬間――。 「うわっっ!!」 何かに足を取られ、フィオレオの体が勢いよく引きずられた。 「フィオ!!」

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