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第4話【日常という名のいま②】
電話が鳴ったのはもうすぐ3時にさしかかりそうなころ、ソファでアイスを食べているときだった。
お袋は1時間ほど前に近所のスーパーへと買い物に出かけていてなりだした家の電話に重い腰を上げた。
子機を取って電話に出ると、
「も、もしもしっ」
ひどく取り乱した女性の声が響いた。
若くはない、中年くらいだろうか?
「はい?」
なんだろう、と眉を寄せる。
変な電話だと一瞬思ったけれど取り乱しそして―――泣きだしそうな、いやもう泣いていそうな電話に困惑した。
「あの、綾子さん、いますか……っ」
綾子というのは俺のお袋の名前だ。
お袋の友人なんだろうか。
泣き声で焦った様子に俺までも焦りを感じた。
「えっと……お袋はいま買い物に出てて……」
この人お袋の携帯の番号知らないのかな。
連絡取ったほうがいいのか。
「―――……あなた……ヒカルくん?」
不意に沈黙が落ちたかと思うと訊かれた。
「え? はい、そうですけど……」
俺の名前まで知ってるってことはやっぱりお袋の知り合いか。
「陽くん、あのね、あなたのお―――」
「ただいま~」
電話の向こうの声と、そしてリビングのドアが開くと同時に響いたお袋の声。
俺は子機を耳から話しお袋を見た。
「お袋!」
「なに?」
スーパーのビニール袋をテーブルに置きながら怪訝そうに俺に視線を向ける。
俺は子機をお袋に差し出した。
「お袋に電話。なんか……すげぇ急いでるみたい……つーか……なんか大変そうなんだけど」
「大変そう? 誰からよ」
「わからない。でも早く出ろよ」
お袋は戸惑うように子機を受け取り耳に当てた。
俺はさっきのおばさんから解放されて安堵したけれど、それでも妙な不安が沸いてお袋が電話に出る様子を見つめる。
「もしもし? ―――……お義姉さん? お久しぶりです。え? は―――……え……?」
お袋の顔色がどんどん変わっていく。
おねえさん、て言った。
だけどお袋には姉はいない。
親父にもいない。
「……それで……あの……はい……はい」
血の気が失せていくお袋に俺はわからないままその場に立ちつくす。
「……わかりました。陽を連れてすぐに行きます」
俺?
ちらりとお袋が俺を見て目が合った。
だけど途端に逸らされお袋は「はい……はい」と何度も頷きながら電話を切った。
「……なんの電話?」
俺が声かけるとお袋は俺を見てやっぱり目を逸らす。
そしてスーパーの袋の中身、冷蔵庫にいれなければいけないものを手早くいれはじめた。
「……陽。出かける準備しなさい。車出す用意しておいて」
「車? どこ行くんだよ。さっきの電話なに? 俺も連れてって一体」
「陽!」
引き攣った顔でお袋が俺の言葉を遮る。
その勢いに黙るとお袋はため息をついてもう一度出かける準備をするように言った。
「……わかった」
状況がわからずにもやもやとしたものが胸に広がるけど俺はそれ以上問いかけず着替えに部屋に戻った。
***
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