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第5話【いまという名の過去③】

「ヨウくんもどうぞ」 風呂上がりの啓介さんは前髪がおりていてボサボサと濡れた髪のせいでさらに若く見えた。 スーツからガウンに変わったせいかもしれない。 まじまじと眺めていると「どうかしたかい」と首を傾げられて「いや、童顔ですよね」なんていう失礼かもしれないことを言うと「そうかな」と苦笑された。 「じゃー俺も……」 時間はまだたっぷりあるけど俺は浮足立ってバスルームへと向かった。 ラブホのエレベーターで休憩か泊りかって話になって俺は泊りを選んだ。 啓介さんも明日は休みだから泊りでいいと頷いてくれた。 部屋にある冷蔵庫からビールを取り出している啓介さんを横目に見ながらバスルームに入って一気に服を脱ぎ捨てる。 俺とは違って啓介さんの脱いだ服はきちんと畳まれていた。 こうして見知らぬ男と一夜を共にするなんて、ほんと初めてだ。 付き合っていないヤツと寝るっていうのは何回かあった。 本当に片手で数えるくらいだし、それは俺がタチに回った回数と同じだ。 今日俺を振ったヤツはネコはいやだと譲らなかったから俺がそっちに回って。 俺は別にどっちでもよかったから――ネコの経験はなかったけど気持ちよさに関してはネットで知り合ったゲイの友人から耳にタコができるくらい聞いていた――あっさり俺の処女をあげたわけだ。 「啓介さんどっちかな」 シャワーを浴びながら呟く。 俺がネコだとは思うけど……。 年上だからタチだとは限らないしな。 でも―――啓介さんにはタチでいてほしーなー。 さらにぶっちゃければ突っ込まれたいなー、なんていう気持ちがどこからか沸く。 初対面だというのに何故か不安なことなんて一切なくてあの真面目そうな男がどういうセックスをするのだろうっていうことばかり考えてた。 ざーっと身体洗って、一応後孔も軽くほぐす。 今日はもともと元のつく彼氏と泊るつもりだったし、そのためにいつでもできるように後孔も綺麗にしてきていた。 夏の蒸し暑さで汗臭くベタついていたのがようやく取れる。 長く浴びていたら新たに汗かきそうだから早々にあがった。 啓介さんのようにガウン着るか迷って、結局腰にタオル巻くだけで部屋に戻った。 そんな俺を煙草を吸っていた啓介さんが目を眇めて見つめる。 じっと見つめてくるから首傾げたら「若さが眩しい」と微笑まれた。 「でも啓介さん若く見えるしいいんじゃないですか」 「若く見えたとしても身体は若くないからね」 そりゃそうだ。でも働き盛りなのって30代とか40代とかじゃないのかな。 喉が渇いて冷蔵庫からコーラを取り出す。 「啓介さんが俺くらいの年のころってどんなだったんだろ。すごくモテてそうだな」 「俺? 俺がキミくらいのときは―――……」 言いかけて一瞬口を閉じ、幸せだったよ、と目を細め伏せた。 良く冷えたコーラを飲みながら"幸せ"か、と考える。 別に不幸せでもなんでもない普通の、まぁ俺も幸せなんだろう。 「俺もいま幸せかもしれないな。こうして今夜啓介さんに出会えて」 ちょっとクサイ台詞っぽいな。 内心苦笑しながらもそれは嘘じゃなかった。 眼鏡フェチのバカより啓介さんと一緒にいるほうが倍楽しい。 目が合って笑うと、笑い返してくれて啓介さんが立ちあがった。 そして俺のほうへと歩いてくる。 「本当にいいのかい?」 「俺が誘ったんですけど」 「そうだけど。……あの変なこと訊くけどいいかな」 「なんです?」 啓介さんは少し躊躇うように視線を揺らしたあと、「キスはしていいの?」なんて予想外のことを訊いてきた。 「は?」 「あ、いや……。なんとなく」 恥ずかしそうに頭を掻く啓介さんに思わず吹き出した。 「いーですよ。俺キス好きだし」 立ちあがって―――顔を寄せる。 1秒、2秒。 ほんのわずか触れた唇。 至近距離で見つめ合うと、 「……あとひとついいかな」 啓介さんはそっと俺の腰に手をまわしながら囁いた。 「俺久しぶりだから年甲斐もなくがっつくかもしれないけど、ごめんね」 俺はまた吹き出して、どうぞ、と返し―――ベッドに二人でもつれ合うように倒れ込んだ。 ***

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