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灰色の糸第15話

 涙ばかりの告別式は終わり、最後の別れが始まる。  棺の中にいるあのひとの顔を見れる最後のとき。  供花を手にし、親族以外にも親しくしていたというあのひとの友人たちや、高校時代の担任だというひとが別れを告げていく。  なんで、どうして、という言葉が投げかけられている。泣いて呼びかけて、でも返事はどれだけ待っても帰ってこなくて誰もがそっと花を添えて断ち切れないまま棺から離れていく。  お袋の番となりなにかを告げ花を置いて、さようなら啓介くん、と言う声だけが聞こえた。  あのひとのお姉さん、祖父母、みんなが耐え切れないと棺に縋り付き泣く。  本当に最後だから。  棺が閉じられたらもうあとは火葬場へ運ばれ、その身体は焼かれて骨と灰だけになるんだから。  最後の別れ、なんてみんなできない。  まだたった数日だ。突然死んで、別れが来て、飲み込めないままその身体も消えようとしてる。  どうぞ、と促され供花を手にした。きれいな百合の花。それを持って棺に近づく。  棺の中を覗くと、白い顔をしたあのひとがいる。たくさんの花に囲まれている。  花を添えるときに、その頬に触れた。  唇で触れたことのある唇に触れてみた。  冷たくて、ここにあるのが啓介さんの身体だけなのだ、と、死んでいるんだって改めて実感した。 「……啓介さん」  誰にも聞こえないように、囁いた。  啓介さん、死んじゃったんだね。 「……誕生日プレゼントありがとう。少し早いけど……もらったから」  時計は俺の腕にある。  持っていくか迷った。つけるかも迷った。でも迷ったから、つけた。 「ありがとう。……父さん」  初めて呼ぶ。貴方に向かって。  啓介さん、父さん。 「……安らかに、眠ってください」  そんなことくらいしか、言えなくてごめんね。啓介さん。 ***

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