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第2話
「お師匠様」
「ん?なにかな、ナズナ」
「僕の膝はラナ専用なので、下りてください」
勝手に膝に頭を乗せてたお師匠様を、腰を上げてゴロンと地面に転がす。
「ひどいっ、ナズナっ!」
お師匠様、煩い。
「ひどくない。ラナは猫だからいいけど、アンタ人間でしょうが」
ニャーと一声、黒猫のラナが空いた膝上に戻ってくる。
ほら、にゃんこ可愛い。重さも丁度、心地いい。
「猫って…、ラナは元々人間だったって話したよね、ナズナ」
「ああ、はい。でも、今は猫ですから」
「そうやって顔スリスリして、美少年の太もも堪能して…グググ……。変態猫っ!」
「ラナは変態じゃありません。こんなに綺麗な黒猫、人間の姿に戻っても絶対美形だし」
「僕だって美形魔法使いって言われてるよ!?」
「ああ。ルピナはそう言ってますよね。でも妹は、僕とは趣味が異なるので」
いくら似合っているとは言え、僕はいやだよ。金髪おかっぱ頭の中年男性なんて。
それに引き換えラナは、毛並みの綺麗な漆黒の猫。金の瞳にツンと尖った耳、ふさふさ尻尾。胸元の毛はふわっふわで、高貴ささえ感じさせるのに、普段はのんびり癒し系。
ぷにぷにピンクの肉球に、ブルーのクールな首輪。
猫最高!猫可愛い!!
突然抱き上げてちゅーってしたのに、ビックリして引っ掻いたりせずにラナは唇をペロペロしてくれる。
「あっ、こら!変態!」
「だからラナは猫です。ヘンタ…お師匠様」
「だからラナは人なんだってば~っ」
どのくらい前の話なのかは聞いてないから分からないけど、ラナが人間だった頃。一人の魔女に告白された。
「そこの美形!私のものになりなさい!!」
「お断りします」
「なんでよ!?」
「好みじゃないので」
「うぅ~~~……じゃあもういいわ!猫になりなさい!!」
そんな滅茶苦茶な経緯により、ラナは猫にされちゃったらしい。
だから、ラナは人間の時もやっぱり美形だったんだよね。
黒髪の美形なんて、憧れる!
僕と妹は出自の所為で、水色と桃色なんて、ちょっと派手な髪色をしてるから。だから金髪のお師匠様より、黒髪の綺麗な男の人にほわんってなっちゃうんだ。
黒髪の美形って言えば、あの人も………
二月くらい前、薬草採集で山に一人で入った時、僕は野犬に囲まれ危うく襲われそうになった。
その時、飛び掛かってきた野犬の群れから僕を庇い、追っ払ってくれたのがあの人──黒髪の剣士さん。
細身に見えるのに逞しくも大きい頼れる背中。
野犬を剣身で傷つけないようにと逆刃に構えた優しさ。
振り返り、「もう大丈夫だよ」と安心させてくれた光り輝かんばかりの微笑。
帰り道が心配だからと、家まで送り届けてくれた紳士的行動。
もう、惚れるしかないよね!
あの日から僕の心は、黒髪の剣士さんに奪われたままなのです。
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