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第5話

グルル…… 暗闇から唸り声が聞こえくる。 神経を研ぎ澄ませる。 1頭、2頭、3頭……全部で5頭か。 前の時は怯えるばかりだったけど、あれから数ヶ月───僕だって、ただ無駄に時を過ごしてきた訳じゃない。 魔法だっていくつも覚えたし、度胸だってついた。 こんな危機ぐらい、一人で切り抜けてみせる。 だって僕は、偉大なる魔法使いの弟子なんだから! 攻撃呪文はまだあんまり習ってないけど、少しなら…… 炎系はダメだ。雨で弱まっちゃうから。 水系もこの雨の中じゃ僕が使える程度の威力の呪文じゃ意味はない。 地系や大気系の呪文は使えそうだな。地面を盛り上げたり、竜巻を起こしたりで足止めして、その間に逃げ………って僕、攻撃呪文はまだファイヤーボールしか習ってなかったぁ! 「グルル………ガウッ!」 野犬の1頭が跳ね上がる。 僕に牙を向けて、涎を散らしながら。 「うわーんっ、おいしくないおいしくないぃっ!」 結局しゃがみこんで箒を振り回すしか出来なくて─── 「ギャンッ───」 野犬が悲鳴を上げ、地面に転がった。 目を開けて、恐る恐る顔を上げる。 ───デジャヴ 見覚えの有る背中が、僕を護るように立ち塞がっていた。 前と同じように1頭、また1頭と、逆刃で薙ぎ払っていく。 叩かれても奴らは暫くは起き上がりまた襲い掛かってきたけれど、何度立ち上がっても一撃も加えられない相手との格の違いに気付いたのか。 リーダーらしき1頭が尾を向けると、残りの野犬もそれに倣うように、暗闇へと消えていった。 「もう大丈夫だよ」 剣を鞘に収め、振り返る。 びしょびしょ…、って言いながら、僕の髪に触れる。 「冷えちゃって……可哀想に。寒いだろう?」 ほっぺを両手で包み込まれた。 あったかい…… 心配そうに眉を垂らした顔を見上げて、目を閉じる。 「……そこで目を閉じるのは、反則かな…」 瞼を上げて首を傾げる。困ったように笑う美しい顔が目に入った。 …はっ、まさか! このまま寝ちゃうのかと思われた!? 恥ずかしさに顔がババッと赤くなる。 だめだめ!助けられた途端に寝ちゃうとか、とんだネボスケだと思われちゃう! つい気持ちよくて目瞑っただけなのに! そんな事よりまずお礼が先だよ、僕! 「助けて頂いてありがとうございました! あの…僕、前にも……」 「怪我はない?」 「……はい」 「じゃあ、もう歩けるかな?早く山から下りたほうが良い」 「あっ……、はい……」 黒髪の剣士様は僕の手を取って、先導を切って山道を下ってくれた。 前にも助けてもらったこと、伝えたかったんだけど…… もう忘れちゃったかな… 剣士様はいい人だから、きっとこんな風に助けられたのも僕だけじゃない筈だ。 いちいち助けた相手のことなんて、覚えてないよね……

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