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第6話
時々「大丈夫?」と僕の足元を気にかけながら、剣士様は山の裾野へと連れ下りてくれた。
「ありがとうございました!ここまでで大丈夫で……あわわっ、剣士様ずぶ濡れじゃないですか!うちに寄ってって下さい!風邪ひいちゃいますっ」
ああぁっ、ずぶ濡れでも美しい!
黒髪が頬に額に張り付いて、色っぽいったらない!
「何言ってるの、勿論家まで送らせてもらうよ。でも僕のうちもそう遠くないから、お邪魔せずに帰らせてもらうね」
そして更に優しくて謙虚とか!
剣士様、神ですか!天使なんですか!?
「帰ったらすぐにお風呂に浸かって、出たら温かいスープでも飲むんだよ」
「はい!お風呂飲みます!」
「お…お風呂は飲んじゃ駄目だからね」
「あっ、はい!スープ浸かります!」
「……うん…、よく温まって。風邪ひかないようにね」
「はい!元気です!」
少し弱くなった雨の中、剣士様は何故か困った笑みをそのお顔に浮かべて、僕の頭を撫でてくれた。
あぁ…麗しい……
僕、今日頭洗えないっ!
「ありがとうございました!」
帰り着いた家の前。何度めかのお礼を言って、頭を深々と下げた。
「いいえ。でも、もう一人で山に入らないようにね。心配だから」
「はいっ!」
いい人だあ…!
見ず知らずの僕を2度も助けてくれて、次の心配までしてくれるなんて!
「あの、本当に寄っていってくれないんですか?」
「うん。ごめんね、僕も家族が心配して待ってるだろうから」
「あっ、そうですよね!」
家族……、やっぱり奥さんとか…いるんだろうか…。
こんなに綺麗で優しくて、強くてすっごく格好良いし……やっぱり、結婚してるんだろうな……
「えっと……、結婚はしてませんよ…?」
「えっ……、僕、声に出して…?!」
「ほら、そんな事はいいから、早く中に入って。本当に風邪ひいちゃうよ」
体を回転させられて、ドア側にグイグイ追いやられた。
ああっ、それでは僕から麗しのお顔が見えなくなってしまうぅっ!
それに、これでもうお別れなんて……
「あっ!そうだ!名前教えてください!」
「えっ……名前…?」
「名前です!」
力が弱まったところを見計らって振り返る。
「えっと……、ラナン…キュラス…」
「ラナンキュラス様…」
「……はい」
「ラナンキュラス様ですね。ありがとうございます!」
「………はいはい。早く中に入って体を温める」
「僕、見送りたいです!」
「だーめ。言うこと聞こうね、ナズナ」
「う~~……わかりました」
ラナンキュラス様に最後に頭を撫でてもらってから、ドアを開けて家に入った。
「ナズナっ!びしょ濡れじゃない!ばかーっ!!」
ホントはドアをそっと開いてこっそり見送りたかったのに…、ルピナにムリヤリお風呂に突っ込まれた。
「もう、体も冷えっ冷えで!ラナに言われてお風呂沸かしておいて正解だったわ。後でお礼言いなさいよ」
「うん、ありがとう。ラナは?」
「2階じゃない。スープ温めておくから出たら飲ん…」
「僕が温めますっっ!」
「えっ?…そう?」
「うん!自分でやるから大丈夫!ルピナは絶対温めないで!」
「……わかった」
危ない危ない。
ルピナにスープなんて温めてもらったら、火を入れただけな筈でもそれは『スープだったもの』になっちゃうんだから。
はぁ……。ラナンキュラス様も、スープ飲んでいってくれればよかったのになぁ。
お風呂も一緒に入ればよかったし。
細く見えるけど、あんなに強いんだもん。筋肉とか、脱いだら凄いんだろうな……あわわっ、僕なにエッチなこと考えちゃってんの!?
あ~っ!ばかばかーっ!!
家まで送ってもらって、名前まで呼んでもらえたし、僕はそれだけで十分、満足です!
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