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第7話

魔法使いが小雨の中家路につくと、軒下から濡れそぼった黒猫が顔を見せた。 「遅いよ、サフラン」 「早く帰れた方だと思うんだけど。どうしたの?水も滴るいい男?」 「君さ、薬草きらせないようにしなよ。ナズナが一人で採取に行って、また野犬に襲われてたから」 「ええっ!?あの子は、もう。使う時取りに行くって言ってるのに」 「それから、あの薬、また作っておいて」 「ええー、やだなぁ。あの薬、原価高いんだよねえ」 会話しながらサフランは、カバンの中からハンドタオルを出し、ラナの体をわしゃわしゃと拭いていく。 濡れっぱなしは寒いだろうし、ずぶ濡れの姿をナズナに見られたくはないだろう。 「だったら早く呪い解除してよ。無駄に400年も生きてるわけじゃないんだろ。偉大なんでしょ」 「まだ388歳だよ!ハイエルフ界じゃ二十歳そこそこのペーペーなの」 「呪い掛けてきたの君の師匠なんだけど」 「だから責任取って面倒みてるでしょ。千歳超えの掛けた魔法なんて(いにしえ)の呪いレベルだよ!」 体を拭き終えると、サフランは玄関を開け中に向けただいまと声を掛けた。 美少年と美少女の双子がおかえりなさいと駆け寄ってくる。 「サフラン様~!」 「ラナ~!ラナってば何処行ってたの?」 「あー、サフランの迎えかな」 「こんなに冷えて!もぉ、一緒にお風呂入るよ」 「えっ、ナズナまだ入ってなかったの?」 「僕はもう入ったよ。ラナがお風呂沸かすように言ってくれてたから、風邪ひかないで済みそ。ありがと」 ラナの体を抱き上げると、ナズナはその黒い毛に白く滑らかな頬をすりっと合わせた。 「だから、ラナも風邪ひかないように僕が入れてあげるから。一緒にはいろ」 「…………うん///」 ラブラブな人と猫が風呂へ消えていくのを、ハイエルフの魔法使いがジト目で見送る。 「ラナってばさぁ、猫に見えるけど普通に人間だからね。23、4の言ったらおっさんだよ、ナズナから見たら」 「えっ」 「え?」 「え、だって23、4だったら私達と同世代ですもん。妖精族だからまあ幼く見えますけど、私達22歳ですよ」 「妖精族……って、もっと小さいよね!?掌サイズだよね!?」 「上位は人間サイズです。…よりはまあ、ちょっと小さいかもしれないけど。あ、私王女なんで敬ってくれていいですよ」 面接の際に年齢も種族も言った筈なのだが、このお師匠様はナズナの外見(美少年っぷり)に浮かれて聞いていなかったらしい。(勿論一緒に居たラナはちゃんと聞いていた) いって15、6歳と思っていた双子が成人していた事実に大層驚いた。 「えっ、じゃあ!僕がナズナに手を出しても犯罪にならないの!?」 サフランが目を輝かせれば、ルピナは風呂から楽しげに響く二人分の声に耳を澄ませ、そして苦笑する。 「ナズナはどう見てもラナ派なので、結局犯罪です。痴漢イカン強姦最低」 「愛があれば年の差なんて!」 「愛が一方通行なんでアカンです」 「体から始まる恋があってもいいんじゃない?」 「良い訳ねえだろ ち○こ腐り落ちろ」 蔑む視線で告げた後、ルピナは一転して満面の笑みを浮かべた。 「それよりサフラン様♥ 今日のシチュー、超自信作なんですけど!」 「ヒッ…!」

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