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部屋
わずかに香る、煙草の匂い。
徐々に意識が浮上し、アルはゆっくりと目を開けた。
オレンジ色の常夜灯だけがついた室内。
ここは自分の部屋の、自分のベッドだ。
ベッドの横に、リンが座っている。
彼はアルの顔を覗き込むと、
「大丈夫?」
と優しい声音で言った。
「え……あ……」
何があったんだっけと考えて、思い出す。
オミと話をしたこと。
オミの昔話。
忘れていたこと。知らなかったこと。
思わずアルは口を押さえる。
なんであんなこと。
レイプされた。
そう語ったオミの口調はとても淡々としていた。
「り、んは、知っていた?」
「アル?」
考えるよりも先に口が勝手に動く。
アルは身体を起こし、リンにしがみ付いた。
「なんで、リンは、知ってて黙ってたの?」
「オミのこと?
あの子が黙っていてほしいと言ったことを、俺が喋るわけ、ないでしょ」
言いながら、背中に手が回される。
そうだ。
オミが望むなら、リンが喋るわけがない。
他の人間だって、誰も。オミが望まないことを、するわけがない。
そんなこと、よく知っているはずなのに、なのに言葉があふれ出る。
「俺だけが、知らなかったの?」
「アルの為、と言っても今更だね」
「俺は……オミを守りたいのに……」
「アル」
強い言葉で名前を呼ばれ、びくりと身体が震える。
リンが顔を覗き込んでくる。
じっと、顔を見つめて、リンは言う。
「それは、オミが望んでいない」
その言葉に何も言えなくなってしまう。
守られる側ではなく、守る側になりたかった。
自分がオメガだと知った時、その想いが打ち砕かれた。
オメガはアルファに守られる存在であり、守る存在になれるわけがないと。
それでも、この町なら。
この力があるのだからオミを守れると思っていたのに。
現実はそれを許してくれない。
「俺は……」
紡ごうとした言葉は、口づけに飲み込まれていく。
頭を押さえつけられ逃げることもできず、唇がこじ開けられ、舌が口の中を舐めまわす。
「ん……」
息つぐ暇もなく、角度を変えて口づけられ、そのままベッドに押し倒されてしまった。
口づけたまま、服をめくられ手が素肌を撫でていく。
まさかこの部屋でアルを抱くつもりだろうか。
それは嫌だと思い、口づけの合間に拒絶を示す。
「ここじゃ、や……り、ん……」
そんな言葉をリンは聞き届けてはくれなかった。
胸の尖りを抓られ、ジン、と鈍い痛みを感じる。
ここで抱かれるのは嫌だ。
隣は、兄の部屋なのに。
口が離れ、耳元で囁かれる。
「声、我慢しないと、聞こえるよ」
「……っ」
首筋に口づけられ、手が胸を撫でていく。
嫌だと思うのに、身体は正直だ。
徐々に熱を帯び、目の前にいるリンを欲しいと本能が訴える。
ここではだめだと思うのに。
「リン……」
信じられないほど甘い声で、彼の名を呼ぶ。
それが合図であるかのように、リンの手の動きが激しくなっていく。
気が付けば服はすべて脱がされ、リンに足を抱え上げられて、性器を舐められていた。
指は後孔を犯し、徐々に指がふやされていく。
見慣れた自分の部屋の天井が視界に入る。
そうだ、ここは自分の部屋。
隣は兄の部屋なのに。
わずかに残る理性も、リンに与えられる快楽にとけていく。
後孔が拡げられ、ぐちゅぐちゅと音を立てていく。
唇を噛んで、必死に声を我慢しているというのに、リンはひたすらにアルの弱いところを撫でてくる。
おかしくなる。
そう思った時、性器から口が離され、指が引き抜かれた。
あぁ。いれてもらえる。
身体が抱き起こされ、ベッドのへりに座るリンの膝に乗せられてしまう。
「自分でいれてごらん」
言われるままに、硬くなっているリンの性器に手を添えて、少しずつ腰を下ろしていく。
愛液にまみれ、リンによって拡げられた後孔はすんなりとリンのモノを飲み込んでいく。
漏れそうになる声を必死に抑え、アルは腰を埋めた。
「あ……はぁっ……」
「すごい、なかうねってる」
煽るように、甘い声で囁かれる。
それだけで脳の奥がじんとしびれていく。
リンはアルの腰を掴み、上下に揺らし始めた。
声を抑えるアルの口に、リンの唇が重なる。
アルは自分から舌を出し、リンの舌に絡めていく。
静かな部屋に、卑猥な水音が響き淫靡な色に染め上げていく。
理性は既になく、本能のままに腰を揺らし、アルファの性器を締め付ける。
早くほしい。
なかを熱いもので満たしてほしい。
リンが達するまで、いったい何度出しただろうか。
互いの腹は、アルの出した精液にまみれているが、そんなこと構いもせず、リンはアルの身体を揺らし続けた。
「アル……俺に守られるのは嫌?」
「ふ、あぁ……」
リンの囁きは、今のアルには届かない。
快楽に溺れ、本能のままにアルファを欲するオメガとなってしまっている。
「俺はアルを守りたい」
「あ、あ、い、いく、からぁ……」
蕩けた顔でアルは身体を震わせて、何度目かの絶頂を迎えた。
そんな彼の中の奥で、リンは達した。
その感覚に、思わず感嘆の声が漏れる。
「愛してるよ、アル」
「あん……リン、リン……」
繰り返し彼の名を呼び、アルはリンの首に腕を回す。
ここがどこであるか考えられなくなっているアルは潤んだ瞳でリンを見つめ、
「もっと、ちょうだい?」
と甘い声で言った。
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