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選ぶもの選ばれるもの

 ぐい、と奥を突かれアルの視界がにじむ。  もう何度、静夜にイかされただろうか。  それもよくわからなくなっていた。  静夜の匂いが身体中にまとわりついて、正常な判断なんてすでにできなくなっていた。  ただ、今は彼が欲しくてたまらなかった。 「せいやぁ……」  信じられないほど甘い声が、自分の口から漏れ出る。  身体の中心が熱い。本能が、もっと快楽が欲しいと訴えかけてくる。  静夜は一瞬驚いた顔をした後、お前……と呟いた。 「まだ……先のはずだろ?」 「ん……静夜ぁ……中、いっぱいに、して?」  うっとりとそう語りかけると、静夜は目を見開き、そして口もとに笑みを浮かべた。 「俺で、いいのか、アル」  一度引き抜かれたあと、一気に奥を突き立てられる。  目の前がチカチカと点滅し、後孔が静夜の精液を搾り取ろうと、収縮を繰り返す。  静夜は少し苦しそうな顔をして、そして、ふっと笑った。 「すげー締め付け……匂いもすごい。  俺、おかしくなりそうだ」 「匂い……?  静夜の匂いしか……あ……」  静夜の匂いしかしないのに、彼は何を言っているのだろうか?  そんな疑問は、すぐに快楽によって消え去ってしまう。  静夜は一度中から引き抜くと、アルの身体を反転させ、後ろから貫いた。 「あぁ!」 「アル……好きだ、アル」  余裕のない声で繰り返し囁き、静夜は首筋を舐めまわす。 「あん……静夜……俺、なんかで……あぁ!」 「お前以外いらねーよ、俺は。  だからアル、俺の番になって?」  甘く囁かれ、うなじをぺろりと舐められる。 「卒業したら結婚して……大学行って。  それまで待つから、俺、お前の子供が欲しい」 「ふ、あぁ!」  何度目かの絶頂を迎え、アルは大きく息をつく。 「噛むぞ、アル」  そうささやかれたかと思うと、がぶり、とうなじに噛み付かれた。 「あぁ!」  ……ドクン……  心臓が、大きな音を立てる。 「あ、う、あぁ……」  ぺろぺろと噛み痕を舐めまわされると、そこから甘い痺れが広がっていく。 「これで、お前は俺のものだ」  それが何を意味するのか、予期せぬ発情に襲われているアルには到底理解できなかった。  真っ白な空間にアルはいた。  これは夢だ。  そのことはすぐに理解できたけれど、なぜ兄が目の前にいるのだろうか?  彼は、少し悲しげな目をしているけれど、口もとは笑っていた。 「いいの、それで」  兄が問いかけてくる。 「何が」  オミは、アルに歩み寄ると頬に手を伸ばして言った。 「アルは、彼を選ぶの?」 「俺が静夜を選ばなければ、オミはどうなるの」  すると、兄はびくり、と身体を震わせた。  オミは視線をそらし、首を横に振る。 「僕は、君が幸せになることを望んできた」 「俺は、オミを守りたかった」 「僕が誰かを望んでも、そのすべてを奪われるもの」  それを聞くと、何も言い返せなくなる。 「オミは……誰が欲しいの」  兄はきっと、将来その意思に関係なく誰かと番わされるだろう。  アルファを増やしたい、強い能力者を増やしたい。  そんな政府の思惑の中に、自分も兄も、リンもいる。  たぶんきっと、静夜もだろう。  彼はオメガである自分にあてがわれた、決められた番なのだろうと思う。  けれどオミは、オメガがわからない欠陥のあるアルファだ。  死にかけて身体にはたくさんの傷があり、レイプされて心まで傷らだけな兄から、リンを奪い取ることなんてできるわけがない。  リンはきっと知っているんだ。  オミとともにいるためには、弟であるアルと一緒にいるしか方法がないと。  オミとリンはアルファ同士だ。  アルファ同士である以上、ずっと一緒にいるなんてできるわけがない。  この国によって、きっと引き裂かれる。 「なんで、アルは弟なんだろうね」  同じことは何度も思った。  兄が兄でなければ、ずっと一緒にいられたのに。  けれどそれは叶わない。 「僕は、君を守るためなら、どんなに傷を負っても大丈夫だよ」  そんなのウソだ。  兄は今でも、心と体に負った傷で苦しんでいるのに。  アルはオミに手を伸ばし、その体を引き寄せた。  自分よりずっと小さい、きゃしゃな身体は、とてもアルファらしくない。  でも兄はアルファで、自分がオメガだ。  夢なのに、オミからはアルファ特有の匂いが漂ってくる。 「ねえ、オミ」 「なに」 「これって夢?」 「ん……同じ夢を見ているのは確かだけれど。  どちらの意識だろう?  僕が知る限り、君はまだ家に帰ってきてないし。  僕は居間のソファーで寝ているはずだから」 「俺も……たぶん、静夜の部屋で……」  それきり、アルは押し黙る。  何をしていたかなんて、兄に言えるわけはなかった。  兄はくすくすと笑い、 「大丈夫だよ、わかるから」 「え?」  腕の中の兄は、アルを見上げて笑顔で言った。 「たまにね、君に何が起きているかわかることがあるんだ。  だから、アルが静夜と何をしていたのか、僕は知っているんだ」  それを聞き、顔中が赤くなるのを感じた。 「そ、それって……俺はわからないのに」  明らかに動揺しているのが、声に出てしまう。 「僕もたまにわかるだけだよ。  嫌でしょ?  自分が何をしているのか、僕に筒抜けなんて思うのは」  その問いかけに、アルはこくこくと何度も頷いた。 「ねえ、アル」 「何」  オミはじっと、アルの顔を見つめて言った。 「僕は大丈夫だよ。  アルは、そのまま自分の幸せを考えて行動してくれたら……それは僕にとって嬉しいことだから」  そう言われると心が痛んだ。  本当にいいのだろうか?  傷らだけの兄と、その兄に守られて、大した傷は負ってこなかった自分と。 「なんでそんな悲しそうな顔をするの」  兄は笑い、そして背中に手を回してぎゅうっと身体を抱きしめてきた。 「僕は大丈夫だよ。  どうせ欠陥だらけだし。  そう簡単に番なんてつけられないよ。実際誰も近づいては来ないし。  リンは……僕の回復に彼が必要であると判断されれば、しばらくは一緒にいられると思うよ」  それなら安心……できるかと言われたら複雑だった。  セックス依存としか思えないほど年中誰かを抱いているリンだ。  アルが去り、オミだけになった時いったいどうするだろう?  それを思うと素直に喜べない。 「ねえ、オミ」 「なに」 「俺は、オミが好きだよ」  そう耳元で言うと、彼はそう、と呟いた。 「僕は……これを言ったら、僕は静夜に君を渡したくなくなるから言わない」  そう言って、兄は腕の中からするりと抜けだしてしまった。 「あとでね」  兄はそう言って手を振り、ふっと、姿を消した。  目を開けると、服を着た静夜が、ベッドの端に座っていた。  優しく微笑み、そして頭を撫でてくる。 「おはよう、アル」 「ん……ごめん、今何時?」  どれくらい寝たのだろう?  長かったような、短かったような? 「今、五時前」  と言うことは、寝ていたのは大して長くないだろう。  よかったと安堵する。  静夜は、寝転がるアルの髪を梳きながら言った。 「なあ、アル。  お前、発情まだ先だよな」 「え? あぁ……うん」 「じゃあなんでさっき……」  そう呟き、アルのうなじを撫でた。 「あ……」  思わず声を漏らす。  そうだ、彼に噛まれたんだった。  発情期でもないのに、身体の奥が疼き、彼を欲しいと本能が求めていた。 「お前は、俺のものだ」  その宣言を嬉しい、と感じるとともに、どこか寂しさを感じた。

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