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リン

 戸塚臨(とづか りん)。今年で25になる。  癖のある焦げ茶色の髪。柔和だとか、おとなしそうだとか人は言うが、そんなことはない。  第二の性はアルファだ。  人類の中で数パーセントしかいない希少種。  知能が高いものが多く、見た目にも恵まれた者が多い。  大半が男性であると言われ、オメガからしか生まれないとされている。  政治家や研究者、優秀なスポーツマンにはアルファが多いらしい。  圧倒的な能力とカリスマ。  けれど、リンはそういった職業にはついていない。  フリーのライターでモデル。  それが彼の表の肩書だった。  この壁の中の町に、リンは閉じ込められている。  多くの住人は、この町と外の町の行き来は自由だ。  けれどリンは、外に出るのに行政の許可が必要だ。  アルファであり、強い超能力を有する者。  それが、臨がもつもう一つの肩書。  そして、さらに強い能力を持つ子供たちの身を守る護衛という肩書きもある。  子供たち、オミとアル。  このふたりを守るのが、リンの仕事だった。  リンは、自分によく似た青年をくみしいていた。  彼の名前は朝峰稔(あさみね みのる)。  23歳で、外見はリンそのものだった。違うのは髪色と背の高さくらいか。双子とか兄弟とよく間違われるが、そのような事実はない。  稔は茶色い髪で、リンより幾分背が低い。といっても日本人の平均よりは大きいはずだ。  そして、彼は自分と同じアルファだ。  アルファである彼を、アルファである自分が組み敷いて、犯している。  その事実に高揚感を覚える。  強いものを征服する喜び。本来ならオメガに向けるはずの性欲を、同じアルファである彼にぶつけているという現実が、さらにリンをあおっていく。 「あ、あ……リン、さん……」  手を頭の上でしばり、膝を折り曲げた状態でしばりあげ、リンに秘部をさらした稔は頬を赤らめ顔をそむけている。  オメガと違い、自ら濡れることのない後孔はたっぷりのローションで解され、ぱくぱくと収縮しているのがわかる。  指でつつけば、腰を揺らしふるふると膝を震わせる姿は可愛いとさえ思ってしまう。 「リンさん……ちょう、だい……」  自分によく似た顔の稔が、蕩けた顔でそう訴えてくる。  それだけで背中がぞくぞくとし、心は悦びで満たされていく。 「稔。どこに欲しいの」 「いじわる、いわな……はうっ!」  すっかりたち上がり蜜をあふれさせる稔自身を指ではじけば、彼は喉をのけ反らせる。  楽しい。  絶対的な力を持つ、アルファの男が自分に屈している。 「稔、可愛い」 「あ……」  囁き耳元に息を吹きかければ、彼は膝を震わせ涙目になる。 「リン、さぁん……」  甘い声で啼き、彼はまつ毛を震わせる。  リンは、稔を縛ったまますっかりたちあがった自身を宛がった。 「ひぅ……り、んさ……あぁ!」  熱くうねる中を味わうように、ゆっくりと中に入っていく。  複数いる愛人の中で、アルファは稔だけだ。  他は皆ベータで、オメガはいない。  そもそもオメガと関係を持つ気などない。オメガはひとりでいい。  あの子と同じ血をひく、彼がいれば。  稔も他の愛人たちも、彼に発情期が来るまでのつなぎでしかない。 「ねえ、稔。  俺にこんな体にされて、オメガを抱けるの?」 「ふ、あぁ!」  囁いて、奥をつつく。  稔自身、今特定の相手はいないはずだ。  ひとりかふたり、オメガと関係をもっことはあるらしいが、番にはならなかったようだ。  番、運命の相手とも呼ばれる存在。  魂が呼応するとも言われる相手がアルファとオメガには存在するらしい。  そんなものの存在を、リンは信じていない。  魂が惹かれあうというのなら、なぜ、自分は同じアルファのあの子に心を揺れ動かされるのだろう。  欲しいのはあの子だけなのに。あの子はアルファで、弟がオメガ。  皮肉だ。  腰を回し奥を突きあげると、稔は背をそらし身体をビクンと震わせた。  中が収縮し、きつくリン自身を締め付ける。  射精もせず、稔は達したらしい。  普段と違い、根元を縛り上げてもいないし、プジーをさしてもいないのに。  その様子を見て、リンは心の底から笑った。 「はは……射精しないでイクなんて。稔、ほんとかわいいね」 「ひぅ……リン、さん……リン、さ……あぁ!」  収縮を繰り返す中を抉るように突き進めば、稔は首を振りもっと欲しいとねだってくる。  お互いが放つアルファ特有のフェロモンが部屋中に充満し、さらに求める気持ちが高まっていく。 「稔、だすよ」 「あ、あ……りんさぁん……りんさ……」  熱く、収縮する稔の中に欲を放つと彼は恍惚とした顔をして空を見つめる。  同じアルファである稔を好きなように抱いても、まだ足りない。  魂が呼応するという番なら、この渇きは満たされるのだろうか?  そもそもそんな番なんて存在、本当にいるのだろうか。  いるのならばなぜ、自分は同じアルファであるあの子に心が揺れ動く。  あの子の弟が発情したら、この渇きは満たされるだろうか。  早く、その時が来たらいいのに。  情事を終え、拘束をときリンはひとりベッドから立ち上がる。  稔はしばらく動かないだろう。  おざなりに互いが出した精液を拭い、毛布を掛ける。 「リンさん」 「何」 「俺は身代わりでも構わないけど……アルを、身代りになんてしない、よね」  訴えかけるような目で、稔はこちらを見つめる。  アル。  似てもいつかない、あの子の双子の弟。  リンが誰を求め、何をしようとしているのか彼は見透かしているらしい。  リンは何も答えず、彼に背を向けてバスルームへと向かった。  もうすぐ迎えの時間だ。  身なりを整え、あの子たちを学校に迎えに行かなければ。  最近体調を崩しがちのアルが、早退すると連絡をしてきた。  発情期が近いのだろうか。最近眠れないようで、見るからに弱っている。  考えるだけでぞくぞくする。  早くその時が来たらいいのに。  自然とこぼれる笑みを噛み殺し、リンはシャワーの湯を止めた。

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