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大切なもの

 0時近くになり、オミから水がのみたいというメールが来た。  リンはグラスの載ったお盆を手にして、オミの部屋をノックした。  どうぞ、という消え入りそうな声が聞こえ、リンはゆっくりとドアを開け中にはいる。  オミは、羽毛布団にくるまりこちらをぼんやりと見ていた。  相変わらず、布団の周りには本が散らばっている。 「水と薬、持ってきたよ」  そう声をかけ、本を避けながら歩み、布団の横にしゃがみこむ。  お盆を床におき、オミの身体へと手を伸ばした。 「ありがとう」  言いながらリンへとすがり、オミはゆっくりと起き上がる。  このまま押し倒せたらいいのに。  そんな欲求を押さえ込み、身体を片手で抱き締めたまま、横においた盆のグラスを手に取った。 「ちょっと、リン……」  戸惑ったような声が聞こえるが、それを無視して、リンは水を口に含みそのまま口づけた。  力なく、手がリンの身体を押すが、そんなオミの頭を押さえ込んで水を流し込む。 「ん……」  逃げる舌を絡めとり、口のなかを蹂躙していく。  しばらくして口を離すと、すっかり息をあげてしまったオミが、抗議の目を向けてきた。 「何するの……」 「水を飲ませただけだよ」  笑顔で答えると、オミは不審そうな顔をする。  水を飲ませるは嘘ではない。  それを口実にキスをしたのは事実だが。 「キスは、好きな人とするものじゃないの」 「俺はオミもアルも大好きだよ」  するとオミは腕のなかで小さく首をかしげた。  なんか違うと思う。などと呟いている。 「あ……アルは。  一緒に寝てたような気がするんだけど」  その言葉を聞いて、チクリと胸が痛む。  夕飯のしたくができ、呼びに来たらふたり抱き合って布団に横たわっていた。  アルはうとうととしていたようだが、物音に気がついて目が覚めたらしい。  それについては悪いことをしたと思う。  けれどオミと抱き合って寝ていたのは複雑な思いだった。  兄弟なのだからおかしいことではないが、嫉妬のような感情が沸き上がってきた。 「アルは、夕食食べて自分の部屋に行ったよ」 「眠れないみたいだけど大丈夫かな」  大丈夫かと言われたらたぶん、大丈夫ではないだろう。  最近薬もあまり効かないらしい。  彼の発するオメガ特有の匂いが最近強くなっている。  もうすぐやって来るだろうか、彼の発情期が。  そう思うと嬉しくてたまらない。  あの子はどんな声で啼くだろう。  考えただけでぞくぞくする。 「ねえ、リン」 「なに、オミ」 「明日休んでいい? 外、出たくない」  そう言って、オミはリンの着ているシャツを掴む。  この子にお願いされて拒絶できるはずがない。 「わかった。アルの送迎は紫音にお願いしておくよ」  あとで親友の紫音に連絡しなければ。  ひとつふたつ文句は言われそうだが、彼もアルたちにはあまい。  結局引き受けるだろう。  いつ発情期がおとずれるかわからない彼を、ひとりで学校にいかせるわけになんていかないから。  オミが顔を歪め、しがみついてくる。 「ごめん、痛くて」  とうに傷は癒えているのに、身体はその痛みを思い出してしまうらしい。  そんなオミの頭を撫で、次は薬と水を口に含む。  オミに顎をとると、また唇を重ねた。  薬と水を流しこみ、口付けたまま布団へと押し倒す。 「ふ、ん……ン……」  舌を絡ませ、唾液を混ぜ合わせ、先程より長く口のなかを味わう。  抱けないなら、これくらいやってもいいだろう。 「だから、キスは……」 「痛くなくなった?」  抗議の声を遮りそう訪ねると、少し顔を赤くしたオミは小さくうなずく。 「お休み、オミ」  腑に落ちない様子のオミの額に口づけ、盆を手に立ち上がる。 「うん、おやすみ……なさい」  そう言って、オミは布団を頭からかぶってしまった。  それを笑って見つめ、電気を消してオミの部屋をあとにした。    オミたちが通う学校は、第2第4土曜日は休みだが、それ以外の土曜日は授業がある。  今日は第1土曜日ということもあり、アルは朝から学校にいっている。  朝彼が家を出るとき、帰りに寄り道をしていいか聞いてきた。 「珍しいね。  そんなこと言うの」  そう問うと、クリスマスプレゼント見てきたい、と答えた。 「友達と一緒なんだけど。いい?」 「いいよ。  でも、5時半には紫音と合流して。病院早く終わるって言ってたし。  今日は、あいつうちで夕食食べてくって」 「わかった」  そう言って、アルは出ていった。  リビングに戻ると、オミがこたつに寝転がり寝息をたてていた。  弟は不眠だが、この子はいくらでも寝られるらしく、時間があればすぐに寝てしまう。  まるでどこかのアニメキャラのようだ。    オミが学校を休んで3日になるが、この期間誰も抱いてない。  今にもこの眠る子を襲ってしまいそうで、リンは耐えきれず愛人のひとりにメッセージを送った。  彼ならうちに来ても不審に思われないだろう。  オミは一度寝るとなかなか起きない。  10分ほどして、ジーパンにセーターを着た稔がやって来た。もともと彼とは今日会う予定だったが、昨日のうちに断りを入れた。  なのに家に呼び出されたのが不思議なようで、彼は戸惑った表情を浮かべている。 「ここに呼ぶなんて、どうしたんです」  靴を脱ぐ稔の腕をつかみ、彼を自室へと連れ込んだ。 「え、あ、え?」  驚く彼を無視して、ドアの鍵を閉める。  あの子がこの部屋に入ってくることはないのだが、念のためだ。  彼の首に腕を絡め、顔を近づける。  文字通り目を丸くしている稔に、できうる限り甘い声で囁くように言った。 「したいんだ、稔」 「り、ん……さん? だって、オミ、いるんじゃ……」  戸惑った声を出す稔の口に唇を重ね、セーターの裾をまくり上げる。  まだわずかに抵抗する稔をベッドにいざないそのまま押し倒した。 「ちょっと、リンさん」 「見られたら、嫌でしょ?」  そう言って微笑むと、彼は諦めたように身体の力を抜く。  稔もまた、総合科学研究所でオミたちと知り合いふたりのことは幼いころから知っている。  成長を見守ってきたオミに、この姿を見られたくはないだろう。 「わかり、ました……」  彼は自分からリンに手を伸ばしてきた。  リンは彼に口づけて、舌を差し込み唾液を絡ませる。 「リン、さん……」  切なげに自分を呼ぶ声が心地いい。  愛撫すらもどかしく感じ、リンは一気に彼が履いていたジーパンと下着を脱がせる。  さすがにまだ何の反応も示していない稔のモノを一瞥し、リンは枕元に用意していたローションのボトルのふたを開ける。  それを見た稔は、首を横に振り拒絶を示す。 「ちょっと、そんな……もう、いれる気なんです?」  いつもは身体を撫でまわし、稔が限界だというまで指もあまり入れないが、今はとにかく時間がない。  それに三日もあいてしまったのだ。もう犯したくて仕方なかった。 「この間、久しぶりにあの子が発作を起こしたんだ」  とろりとしたローションを指に絡め、ぐいっと後孔に指を差し込む。 「ひっ……」  短く悲鳴を上げる稔を無視して、指を根元まで食い込ませ動かせば、電流でも走ったかのように、稔はびくんと身体を震わせた。 「薬を飲ませるために、キスして。あの子の口の中、味わって。  でも、抱けないんだ。俺。  あの子を抱けない」 「リン、さん……あぅ……」  涙目になりながら、稔は漏れる声を抑えようと手で口をふさぐ。  三本の指を中に差し込みおざなりに中をほぐしたころ、リンは着ていたスラックスの前を開け、いきりたった自身を取り出す。  そしてゴムをせず、稔の足を抱え上げて一気に彼の身体を貫いた。 「ひぅ……!」 「中、熱いね、稔」 「ぅ……ぁ……」  稔の中は熱く、リンのモノをきつく締め付ける。  アルファの彼は、本来ここに男のモノを受け入れることなどないはずなのに。  彼はリンに従い、リンを欲する。  その姿がまた可愛らしかった。 「あの子の唇……あの子の舌、もっと味わいたかったけど。  さすがに不審がられちゃった」  言いながら、腰をすすめ最奥をつつくと稔は両手で口を押さえ、身体をこわばらせた。  彼は奥をつつかれるのが大好きだ。  普段ならもっと奥をつついてとねだるのに、声を抑えるのに必死になりすがるような目でこちらを見ている。 「今日は焦らす気はないよ。  ほら、中をいっぱいにしてあげるから、ね?」 「ふ、あ……ふ……」  声を抑える稔の手を口から外し、身体を折り曲げて彼に口づけた。  これなら声を気にしなくて済むだろう。  頭を押さえて口の中を舌で舐め回し、唾液を混ぜあえば、彼はリンにしがみ付いてくる。  腰の動きを早め、リンは彼の中に熱い迸りを放った。 「ん…………」  稔もまた、ぶるっと身体を震わせて、たちあがった自身から欲を吐きだす。  気持ちいい。  けれど物足りない。  オメガを抱いたら、この渇きは満たされるのだろうか?  リンはずるりと中から自身を引き抜くと、それはまだ芯を持ったままだった。  まだ満足できないらしい。  荒い息を繰り返す稔の身体を反転させ、腰を高く上げさせるとぱくぱくと収縮する後孔にもう一度挿入する。 「え、あ……だめ、連続で……」  そんな抗議は無視して、稔の腰を掴み彼の身体を揺さぶっていく。  結局連続で3度稔の中にだして、なんとなく満足をし彼を解放した。  稔は疲れたらしく、ぐったりとして動かない。  とりあえずウェットティッシュで汚れを拭い、ごみをスーパーの袋に入れて口を縛る。 「しばらく寝てていいよ。  俺はあの子のところに行ってくる」  そう声をかけても、稔は動かなかった。  部屋を出てリビングへと向かうと、ぼんやりとした顔のオミがこたつに寝転がりテレビを見ていた。  音楽チャンネルのようで、流行の歌のPVが流れている。  オミはふっと顔を上げて、リンにむかって手を振った。 「ねむい……」  と言って、オミはまたうつらうつらし始める。  さすがにいつまでもこたつで寝るのはよくないと思い、身体を揺さぶる。 「いい加減起きて。ほら、宿題あるでしょう」  学校を休んでいる間に出された宿題をアルが持ち帰っていた。  やればすぐ終わるのに、オミはなかなかやろうとしない。  面倒臭い、という言葉と共に、こたつの天板に突っ伏す。 「ほら」  言いながら、リンはプリントと筆箱をオミのそばに置く。  そこまでされて諦めたらしく、オミは不機嫌そうに顔を上げて筆箱を開けた。 「嫌いな数学は、教えてくれる人いるから」 「え、誰」  オミはなぜか数学が大嫌いだ。  わからないわけではないらしいが、公式を覚えるのが面倒臭いらしい。 「稔。やりたくなかったら稔が手伝ってくれるよ」 「はーい」  いやいやという声音で返事をし、オミはプリントをやり始めた。  しばらくすると、稔がリビングへとやってくる。  何もなかったかのような顔をして。 「俺、部屋で仕事してるから。稔、頼んだよ」 「はい」  いっしょにこたつに当たり、優しい笑みを浮かべて稔はあの子を見ている。  それを一瞥して、リンはベッドのシーツを替えに自室へと向かって行った。

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