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発情
アルが目覚めると、ぼんやりとしたオレンジ色の明かりが視界にはいる。
見たことのある天井と漂う煙草の匂いで、ここがリンの部屋であることに気がつく。
視線を巡らせる間もなく、アルはベッドに腰かけてる彼に気がついた。
リンは煙草を手にし、それを口に運んでは紫煙を吐き出している。
普段は絶対にアルの前では吸わないのに。
しかも彼はアルたちを自分の部屋に入れたことはない。
なんでこの部屋に寝かされているのかわからず、アルは身体を起こした。
そこではじめて気がつく。自分が服を着ていないという事実に。
かけられていた毛布がはらりと落ち、身体中についた赤い痕が目にはいる。
煙草を吸っているリンは振り返り、いつになく冷たい視線をアルに向けた。
「おきた?」
抑揚のない声に、胃の腑が冷える思いがする。
「なん、で……」
ここにいるの、と言いたいのに掠れて声が出ない。
咳込むと、ベッドわきのテーブルからリンがペットボトルを手に取り、アルに渡してきた。
それを受け取りふたを開け、いっきに水を流し込む。
一息ついて、煙草の火を消しているリンに今一度言った。
「なんで、俺はここに」
すると、リンは身体をアルのほうに向けて、射るような目で見つめてくる。
淡々と、彼は言った。
「アルの友達。静夜君だっけ。彼が送ってきた。
正確には、転移してきたっていうのが正しいけど」
手が、アルの頬に触れゆっくりと滑り落ち鎖骨を撫で上げる。
彼に触られたところからジワリと熱が広がり、アルはとっさに身体をひいた。
すると、くすりとリンが笑う。
「俺を拒絶する?
彼には抱かれたんでしょ? 彼は匂いを誤魔化そうと頑張ったみたいだけど。アル、君から彼の匂いがする」
ぶわっとリンから匂いが溢れ、アルは総毛だつのを感じた。
身体の中心でくすぶっている熱が、徐々に広がっていく。
「あ……あぁ……」
ぐらりと視界が歪み、アルはとっさに目の前にいるアルファにしがみ付く。
欲しい。
目の前にいるアルファが欲しくてたまらない。
いや、あんなに彼と……静夜としたのに。
なんで、なんでリンを欲しいと思う?
「君の初めては俺だって思ってたんだけど。残念だよ、アル」
手が、優しく頭を撫でる。
リンの匂いはどんどん強くなっていき、アルは徐々に息をあげていった。
「まあでも。
まだ4日ある。彼、君の中に直接出さなかったんでしょ?
それじゃあ、辛いよね、アル。
発情は、アルファの精液を直接中から吸収すればかなりおさまるのに」
「ひっ……あぁ……」
口から洩れるのは喘ぎ声ばかりで言葉にできない。
アルはこの熱情にあがらう術なんて知らないし、目の前のアルファから逃げる方法なんて知らない。
アルはリンの顔を見つめ、本能のまま彼に請う。
「お願い……ちょうだい」
「わかってるよ、アル。
たくさん抱いてあげる。
彼と違って、ゴムはしないから」
そう言って、リンはアルに口づけた。
口の中を生き物のように舌が蠢く。
舌を絡め取られ唾液を流し込まれ、それをアルは悦んで飲み込んだ。
欲しい。
彼のすべてが欲しくてたまらない。
ぼすん、とベッドに押し倒され、服を脱ぎ捨てるリンをぼんやりと見つめた。
引き締まった身体の中心はすでに天を向いている。
あぁ、あれを入れてもらえるんだ。
そう思うと心が震えだす。
リンはアルに覆いかぶさると、胸の突起を撫でた。
じん、と甘い痺れを感じ、アルはもっと撫でてとせがむ。
ざらりと舌が乳首を舐め、ちゅうっと吸い上げられると徐々にそれは尖り赤みを帯びていく。
「ン……あン……リン、きもち、イイ」
「アル、甘くて美味しい……」
うっとりと呟いて、リンは唇を滑らせていく。
まるで所有物だと言わんばかりに、身体中にキスをおとされ、肌に痕をつけられていく。
「アルは俺のモノだ」
そんなほの暗い囁きも心地いい。
アルはまたの間に差し込まれたリンの膝に擦り付け、もっとほしいとせがんだ。
「こんなに蜜を溢れさせて、イヤらしいね、アル」
「う、ん……リン、キスしてぇ」
脳も、身体もすべてズブズブに溶かしてほしい。
アルファのフェロモンにあてられ、アルは完全に理性を失っていた。
視界が揺れる。
リンが身体を貫き、細い腰を掴んで揺さぶっていく。
ギリギリまで出され、一気に奥まで入れられると、アルは中を締め付け軽くイってしまう。
「ねえアル、わかる?
今、俺と君が繋がっているって。
中、熱いね。全て搾り取られそうだ」
「あ、う……リン、中、ちょうだい。熱いので、いっぱい……」
「いっぱいだしてあげるよ。孕むくらい。
大丈夫、終わったら薬をのませてあげる」
「あん……リン、あっつい、よぉ」
言っている言葉の意味も、聞いた言葉の意味もわからないまま、アルは与えられる快楽に溺れていった。
どれ程快楽の海に沈んでいたのだろうか。
気がつくと、身体の節々が痛くて仕方なかった。
久しぶりに眠れたらしく、頭は大分クリアになっていた。
空いたカーテンから差し込む日の光か眩しくて仕方ない。
時計をみると、10時を指していた。
「おはよう、アル」
近くから声が聞こえたかと思うと、肩を掴まれ振り向かせられる。
そのまま唇が重なり、口のなかを蹂躙されていく。
すぐに息が上がってしまい、アルはリンにしがみついた。
唇が離れ、リンがうっとりとした顔でアルを見つめる。
「薬を飲ませたから大丈夫だと思うけど。
今度はちゃんと、避妊するね。
俺は構わないんだけど、まだ妊娠する覚悟なんてないでしょう?」
妊娠。という言葉に腹のそこが冷える想いがする。
そうだ。
町中で発情し、静夜の家で彼と交わった。
そして、目の前にいる男に抱かれ、生で中に出された。
出来たらどうしよう。
そう思うと歯がカタカタと音をたて始める。
「アル、大丈夫?」
身体をぎゅうっと抱き締められるが、心の奥底で生まれた恐怖は徐々に広がっていく。
「でき、ちゃうの……? あか、ちゃん……」
「大丈夫だよ、アル。緊急避妊薬は飲ませたから」
緊急避妊薬。
それを聞き、アルは安堵する。
けれど何度も中で出されただろうに。
本当に大丈夫なのだろうか。不安は完全には消えず、アルはリンにしがみついた。
「可愛いアル。
そんなにされたら、またしたくなる」
「リ、ン……?」
何度も何度も抱いただろうに。まだ足りないのだろうか。
驚いた目でリンを見つめると、彼はフフっと笑う。
「今日はもうしないけど。だけどね、アル。これからは毎日抱いてあげる。
大丈夫。発情していないかぎり妊娠はしないから」
まるでいいことのように彼はいい、アルの口に口づけた。
それから、アルの日常は変貌を遂げた。
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