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第2話
バラ園に着くと、濃厚なバラの香りが周囲を漂っている。もともとは先々代の奥様のご実家からバラの苗木をお嫁入の時にお持ちになったのがきっかけで、このバラ園が出来たらしい。若様は、様々な品種がある中、秋に咲く、少し小ぶりで匂いもあまり強くない、薄いピンクのバラがお好きだった。
「ヘンリーさん!」
バラ園の奥、奥様のお気に入りの大輪の真っ赤な花を咲かせるバラの根本に、ヘンリーさんはしゃがんでいた。これは、奥様とヒデュナ様がご結婚された時、ヒデュナ様のご親友でもある現国王が結婚祝いにと贈られた物。高貴な匂いもさることながら、ベルベットのような花弁にも、うっとりとしてしまう。しかし、今は、このバラは咲いていない。これは春に咲くバラだから。
「おお、ルイ、どうした」
軍手を泥まみれにしながら、振り向いたヘンリーさん。そばには大きな袋が置いてあり、それはバラのための肥料なのがわかる。
「あの、奥様が若様のお部屋にバラを飾りたいそうなんです。何本か剪定していただきたいんですが」
「おお……でも、これはご覧の通り、花は咲いてないが」
「あ、いえ。これじゃなくて、入口近くにあるピンクのやつ……」
「あー、あれか。わかった。ここの施肥が終わったらすぐやろう。ちょっと待ってな」
ヘンリーさんはそう言うと、再び作業に戻った。僕は、ヘンリーさんを残して、ピンクのバラのところまで戻ると、その柔らかい香りを楽しんでいた。バラにはキツイ匂いをするものもあるけれど、このバラの香りはとても優しい。
「お待たせ。何本くらい持ってくかい」
バラには本数にも意味があるのは、知っていけど、僕は細かい本数ごとの意味はよくわからなかった。でもお部屋に飾るのだから、そんなにたくさんはいらないかもしれない。
「十本くらい?」
「わかった。ちょっと待ってろ」
綺麗に咲いている花を選びながら、ヘンリーさんは一本一本、棘を落としてから、僕に渡してくれる。
「ほれ、これで十本だな」
腕の中のバラがこの上なく愛しく思える。このバラを見た時の若様が、どんな風に喜んでくれるかな、と思うと、嬉しくて、自然と笑顔が浮かんでいた。
「……ルイ、これもいれとけ」
ヘンリーさんが、もう一本、まだ蕾のバラを渡してきた。
「ん?なんで?」
「……まぁ、なんだ、全部、開ききった花だからな。一本くらい、これから咲く花も入れといてもいいだろ」
花瓶に飾った時に、どんな見た目になるのか、僕は少し不安になりながらも、素直に受け取った。
「ありがとうございました」
「ああ、早いとこ、奥様に持っていきな」
「はいっ」
僕は、奥様がいるだろうと思われれるお庭の見えるテラスへと、一生懸命走った。
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