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第6話

 王宮の庭園での仕事は一日くらいじゃ終わらなかった。  でも、もともと本家の人たちがこまめにやっているせいか、人の出入りが多い入口から中央くらいまでは、それほど手間はかからなかった。明日は奥の針葉樹が茂っているところのメンテナンスをするらしい。おじさんたちは明日も朝から入るらしいんだけれど、僕は昼頃からでいい、と言われてしまった。その頃には、集めなくちゃいけない残材が集まりだしてるだろうから、それをまとめて廃棄用のトラックへ移動させたりするのが僕の役目だ。 「ただいま」  家に戻りドアを開けると、玄関の中がバラの匂いで充満していた。若様が好きなバラではなくて、深紅の大ぶりなバラが飾られていた。母さんはキッチンで料理をしているようなんだけど、食べ物の匂いよりもこのバラの匂いのほうが強い。 「うわ、どうしたの?」 「ああ、お帰りなさい。どうだった?仕事のほうは?」  母さんは振り向きもせずに、声だけかけてくる。 「そんなに大変じゃなかった。明日もお昼ごろから来いって」 「あ、そう。じゃぁ、なんか、皆さんにパンでも持って行ってもらおうかしら」 「明日、忙しくないの?」  キッチンのそばのテーブルの上にあったオレンジに手を伸ばす。 「今日のほうが忙しかったから、うちも明日は午後からにしようかと思って」 「何?忙しかったって」  オレンジを手にして椅子に座ると、厚い皮にナイフを十字に入れると、一枚ずつ皮をむく。柑橘系のいい匂いが一気に空気に広がる。僕はこの匂いがかなり好きだ。 「そうなのよ。奥様が急にバラをたくさん集めて欲しいって、わざわざいらして」 「奥様が?」 「そう。ほら、お前も覚えてる?このお屋敷に国王陛下御夫妻がお泊りになるお部屋。あそこをバラでいっぱいにしてほしいって言われて。ヘンリーと私だけじゃ足りなくて、ホルグさんまでかりだされてね。まぁ、そのおこぼれが、あの玄関のバラよ」  その言葉に、僕の頭に浮かんだのはノア様と若様の二人。今、このお屋敷でお客様といえるのはノア様くらいだし、あの部屋に彼だけが泊まるなんてこと、考えられない。 「それって」 「ん?」 「あ、ううん」  僕の頭の中はグルグルグルグルと、二人のことばかりが駆け巡っていた。

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