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第9話
仕事が一段落したので脚立を運びながら庭園の出口までやってきた。黒い車がお屋敷の玄関前のロータリーに止まっていた。まさか、と思ったけど、黒豹が車に乗っているのが僕でもわかった。どうやって中に入ったんだ?と思ったが、ふと、あのメイドのことが頭に浮かんだ。僕は脚立を置き、ロータリーの外れまでいくと、木の陰に隠れた。
すると玄関のドアが開き、ノア様が飛び出してきた。でも、すぐにドアのほうに戻ろうとしたけど、あっという間にノア様は黒豹に捕まってしまった。
その時僕は、無意識で「ダメッ!」と言いながら飛び出していた。黒豹に体当たりをして、ノア様を助けようとしたんだけれど、勢いがよすぎて、ノア様まで倒れこんでしまった。
「痛ッ」
「ノア様!?大丈夫ですかっ!」
慌てて助け起こそうとした時。
「何しやがるっ!」
その言葉を聞いた瞬間、僕は。
青い空を高く飛んでいた。
僕は猫科じゃないし、運動神経は人間よりマシ、という程度だから、勢いよく投げ飛ばされて上手く着地が出来なかった。ドスンッという音とともに、僕の身体は地面に叩きつけられる。あまりの激痛に声も出ない。僕の視線は黒い車の陰でノア様が目を丸くして見つめている……あ、あれ?あの姿は!?
ノア様は人間ではなく、僕と同じ半獣人の姿になっている。それもとびきり美しい白金の獣だ。ああ、あんな美しい方だったのか。だったら、仕方がない。若様だって、好きになっちゃうだろう。
「若様……」
僕は身体の痛みと心の痛みとで朦朧としていた。
「ルイ!」
若様の声がする。それに匂いも。僕はこのまま死んじゃうのかな。
「死なないっ。俺が死なせないっ。しっかりしろっ」
僕の身体を誰かが抱きしめてくれた。その人の匂いはやっぱり若様の匂いと同じで、僕は幸せすぎる気持ちでいっぱいになる。
「俺の嫁になるのが小さい頃からの約束だろうっ」
僕はビクッと身体を震わせた。僕ですら忘れてた子供の頃の口約束を覚えているなんて。目をゆっくりと開くと、そこには僕の大好きな若様の必死な顔があった。
「若……様……?」
「ああ、今、帰って来た。喋るな、今、治癒の魔法をかける」
若様の腕の中はとても温かいな。そう思いながら、僕は意識を手放した。
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