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第10話 『好き』と『好き』
「……おはよう、シュン。って言っても、もう昼近くだがな」
「おはよ? ハーク……」
俺の前に現れたハークは既に服を着ていて、俺は自分のベッドで寝ていた。
身体がサッパリしている。ハークが綺麗にしてくれたんだな。有難い。
昨日の記憶は……ある。
ハークに色々教えてもらった。
でも、最後は寝落ちしちゃったんだよな、俺。
「……」
昨日のハークとの行為を思い出すと、"ぽぽぽ"と体温が上昇してきた。
恥ずかしいんだけど、何だか嬉しい。むず痒くて、変にニヤける。
これで俺も幾らかソッチ系の知識を得た! むふふん!
……怖い事もチョットあったけど、ハークは優しく気持ち良くしてくれたし、教えてくれた。
やっぱハークは俺の"師匠"だな!
あ。でも、"師匠"呼びは俺の心の中でだけにしておこう。
"ハーク"って呼ぶ約束したもんな! うんうん。
「……シュン、俺の事、"好き"か?」
「? うん、好きだよ! 当然じゃん!」
突然どうしたの?
俺がハークを好いてないって?
ハークは強くて大きくて格好良いし、優しくて面倒見も良い。
だからハークは俺が初めて出会った10年前…当時22歳で若いけど、すでにこの街のボス猫だった。
それに魔力持ちで人型にもなれるし、魔法も実戦も強いのを俺は知っている。
あとは好きなのは本を読むのと、クッションカバー集め。季節でカバーを変えてるハークってば、やっぱマメなのかな。
しかも猫だから猫舌で熱いの苦手だけど、ホットミルクや手羽元とゴロゴロ野菜のシチューが好きなのが俺的にツボ。
だからシチューは俺は多めに作るし、一番得意料理!
……小さく出会って拾われた時から10年、一緒に暮らしているから他の猫よりハークの事は分かっているつもり。
まぁ、そんな街の自慢のボス猫を嫌いな奴なんて居るのかな?
敵対心がなきゃ、そんなの考えられない!!
「……シュン、お前の"好き"と、俺が抱いている感情は似ている様で同じじゃない」
「?」
「分からないか? ……やはり最後までしなくて……良かった」
「ハーク?」
でも、灰色の瞳がとても悲しそう。雨が降る前の曇り空みたい。
ハーク、泣かないで? ハークが悲しいと、俺まで悲しくなる……。
猫の姿だったら、猫ヒゲがしょんぼり下に全部さがっちゃうよ!
"ペロペロ"して"ピトッ"てくっいてお昼寝して美味しいもの食べたら、元気出してくれる?
それに……ハークの言う、"最後"って、何?
「"最後"は教えてくれないの?」
「……それは、シュンが選んだ一番好いた、全てが欲しいと心の底から思える相手に教えてもらえ。
……俺では……ダメだ。傷付けてしまう事になる」
「……うン……?」
納得いかないけど、そういう事なのか?
傷付ける、って、直接的な流血って事? それは困るな。
「シュン、お前が誰を選ぼうと、俺はお前が好きだ。祝福する」
「うん。俺も、ハークが好き」
「……だが、俺がこれからもお前を好きな事を、どうか許して欲しい。もう俺は……変われない気がするんだ」
「……うん」
何だかモヤモヤくる言い方だなぁ……。
そして俺はハークと朝食を摂り、適当に服を詰めて夕方近くにアジアジに戻った。
戻る途中、新しいコップや食器類を一人分買った。
今まではハークとお揃いとかしてたから、チョット……そう、チョット寂しい。
模様や色違いとか……セット買いで安くも出来たのに。
まぁ、ハークの所にある俺の荷物は追々アジアジの自室に運び込むなり色々する予定だ。
そんなどこか寂しい気持ちを抱えて、俺はアジアジへ向かった。
そして荷物をアジアジの宛がわれた部屋に置き、俺は部屋から空を見上げた。
「……ハークの瞳の色だ」
ハークの灰色の瞳の色と同じ灰色の雲が、空一面を覆っていた。
それから夕方が過ぎた夜から降り始めた雨は、次の日の朝までシトシトと止まなかった。
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