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第23話 微笑む男
「はい、シュンちゃん、あーん」
「ぁ……あー……ぅ」
「次はルアちゃんね」
「はーい」
アイスを"あーん"食べさせられている俺、まだ初日なんだが……。
何だか最初っから濃厚な気がする……。
そしてルアが突然指名で呼ばれて謝りながら俺の元から離れた。
誰か呼ぶから、と言われたが、基本会話と撫でられるだけだから「大丈夫」と答えた。
ルアはなるべく早く戻るね、とい言って俺の元から離れた。
どうやら代わりを頼めない、どうしてもな相手の様だ。
そんなルアを指名してきたのは上質な服を着た細身のロマンスグレーで、その隣に座ってルアは何か飲み物を渡されて撫でられ始めた。
背中や太腿を撫でられ、客の男に甘える様に抱き付いて動かないルア。
そ……そうか、ああやると良いんだな……。
俺はアイスを食べさせられ、頭を撫でられながらたまに視線をチラチラとルアへ向けた。
そしてアイスを食べ終わり、俺は思い切って男の腕に腕を絡めで上目で相手の反応を確認した。
俺の客の男は視線を感じたのか、こちらを向いて「甘えてくれるの?」と言って背中を撫で始めた。
俺は良く分からないから……ルアみたいに腕にもたれた。
そう……メロンクリームソーダを俺に渡してきた男は、この街で三本に指に入る美容関係の商人だったのだ。
販売地域は多岐に渡り、王にも献上している証まで持っているというのだから本当に驚きだ。
しかも見た目も大変良いし人当たりも柔らかい為、老若男女誰からも人気が高いのだという……。
ま、それはこのアジアジの猫達の間でも同様で、彼に撫でられたい猫はたくさんいるのだ。
しかし彼は博愛精神が強いのか、アジアジの猫達を大体平均的に絡み撫でるそうだ。
だから新人の俺の所に来るのは当然か……。
……と、言うのをポショポショとルアが俺に教えてくれた。
そうそう、この男は名前を『リーマス』と言い、名前は本人が教えてくれた。
俺は背中を撫でる手が気持ち良く、瞳を閉じてコテンと頭を腕に傾けた時、とある声に引き戻された。
「…………シュン、気持ち良さそうだな」
「!!」
「良かったな。……お前は接客中みだいだから、またな」
「ハーク!」
そう言ってハークはオレンジジュースのグラスを持って俺に背を向けた。
ふわりとフレッシュな柑橘の香りが漂ってきて、少しずつ薄らいでいく。
まるでそれは帰ってしまうハークの様だ。
ハークが消えてしまう。
思わず腰を浮かした時、手首を掴まれた。
俺はその衝撃に掴んだ相手を確認した。
「何だい? シュンちゃんはさっきの人が帰って悲しいの? お子ちゃまだね~」
俺はリーマスさんの言葉に、一瞬息を飲んだ。
見透かされた、と……自分の無意識が怖くなった。
でも、リーマスさんの次の言葉に俺は飛び上がる思いをした。
「今は私が君の相手だよ」
「!!」
そ、そうだった……! 俺、失礼な事してる!!
「あ、あの……ごめんなさい……」
「……ン~……良いよ。初日だもんね。不安もいっぱいだよね」
そして「さっきの彼、知り合いなんでしょ?」と言いながら、俺の頭を撫でてくれた……。
俺はリーマスさんの隣に座り直し、一瞬だけハークが去った方に視線を向けたら、二階から降りてきたフェリスさんに持っていたジュースをあげていた……。
……本当は俺の物なのに……。
妙な悔しさがじんわりと身体の内側に広がる。
「……ね、シュンちゃん」
「はい、……何ですか?」
優しい微笑みはそのままに俺の髪を掬う様にし始めるその手に不安が生まれ、俺は身体が少し揺れた。
ルアはこの状況に気が付いていない。
傍から見れば、只単に会話している様に見えているだろう……実際そうだけど。
……ハークも撫でてはいないけど、フェリスさんとカウンターにこちらに背を向けて座り、バーテンに扮した店長と話している。
一人で対応しないといけない状況に俯き、言い知れない不安感で瞳が潤んできた。
そしてリーマスさんは俺を見ながら口を開き……
「……カワイイ猫耳出して撫でさせてくれたら、今のは忘れてあげる」
「!?」
俺は……店長に"極力出さない様に"と注意された、"猫耳"を要求された……。
それとも俺は……ルアが教えてくれた「猫耳を触りたがる客はイヤラシク撫でたがる」から、『個室』へ誘われているのだろうか?
俺は驚きと真意を確かめたくて顔を上げ、リーマスさんを見た。
「!」
―……目の前の男は威圧を背負い、微笑んで俺の答えを待っていた……。
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