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第24話 それから

「……にゃ……っ……」 どーしよ? どーしよ? ……どーしよ―――!? 思考がぐるぐるしだして、思わず猫語が出てしまった。 こんな事なら、ルアに誰か呼んでもらえば良かった! お客との個室もルアが居ないと、多分……いや、絶対ダメだ!! 「シュンちゃー……」 「リーマスさん、今日初めての新人を困らせたらイヤですよ。シュンが泣いてしまいます」 突然お客と俺の間に入ってきたのはルアではなく、赤いリボンを首に巻いた知的美人だった。 澄んだ空色の綺麗なアイスブルーが冷たそうなのに、それがむしろ良いと見える瞳。 俺はもうアジアジ全員との自己紹介は終えている。 現れた人物に潤んだ瞳で名前を呼ぼうとしたら、リーマスさんの方が早かった。 「だが……私は今日、猫耳を触りたいんだ……ロアル」 「……そんな事を仰る様なら、私のを二階で触りますか?」 言いながら微笑んだ……ロアルさんにお客であるリーマスさんの頬に赤色が浮かんだ。 「ロアルと二階……」と呟く声が聞こえてきた。 「この子にはまだ早いですよ。リーマスさんも、シュンをまだたくさん撫でて愛でたいですよね?」 「それは……まぁ……」 ロアルさんの言葉にリーマスさんが頷いた。 そしてその様子にロアルさんは俺を席から立たせ、リーマスさんの所に別な猫を呼ぶと俺をルアの所に連れて行ってくれた。 ルアは俺がロアルさんに連れられて現れた事に驚いたが、直ぐに自分の隣に座らせて強く抱きしめてくれた。 「シュン、ごめんな? やっぱり僕がちゃんとヴェオルス様に話して、ここに一緒に連れてくれば良かった。ロアルさん、ありがとう御座います」 「私は良いよ。ヴェオルス様、すみませんが今夜はルアとこのシュンを可愛がってやってくれませんか?」 「にゃぅ……宜しくお願いします……。シュン、です」 「ああ、私は構わないよ。私はヴェオルス。可愛い子が入ったんだね。さ、君はどの飲み物が良いかな?」 そう言って俺にソフトドリンクのメニュー表を見せてくれた。 俺はアイスココアを指し、ヴェオルス様は直ぐに頼んで俺の前に置いてくれた。 ……"様"、って付くからには、何だか別次元な気がするんだけど、この人相当偉い人なのかな? 近くで見ると年は50代後半な感じ……? とにかくハークと同じ曇り色の垂れ目。落ち着いた雰囲気で渋甘格好いい……。 俺はルアに抱き付きながらヴェオルス様を見た。 ヴェオルス様は俺の視線に気が付いてふわりと笑い、頭を撫でてくれた。 大きく確りとした厚い手……何となく剣ダコっぽいゴツゴツ感が……。 そして俺はリーマスさんの方を見たらロアルさんと居て、俺の視線に気が付いたのか小さく手を振ってきた。 俺はアワアワしながらコクコク頷いたら、"ぷは"ってな感じで笑われた。にゃーう。 そこからハークの方を見たら、フェリスさんとまだ飲んでいた。ちょっと半眼になってしまう。 拗ねた気分でルアへの抱き付きを強めたら、ルアからヴェオルス様の向こう側に座る様に言われた。 つまり、『俺・ヴェオルス様・ルア』な感じだ。 俺もルアの真似っこで反対側からヴェオルス様に抱き付く。 ヴェオルス様はご機嫌で俺達をたくさん撫でてくれた。 うん、俺、ヴェオルス様に撫でられるの好きかも! 優しくて丁寧に撫でてくれるの嬉しい! そう思うとリーマスさんはチョットくすぐる感じだったな。 あとさ、抱き付いて分かったけど、ヴェオルス様……脱いだらすごい筋肉持ってそう……。 ハークも鍛えた肉体を持っているけど、どっちが凄いかな? そう思ってペタペタ腹筋の辺りを触ったら、ルアにココアを飲んだらどうだと言われた。 俺は素直にココアを飲み始めたけど、もしかしたらフロアは猫がお客を触る場面では無いのかも。 もしくは……ルアはヴェオルス様に強い好意を持っているか……。割り切っているけど、割り切れない感情とか? ……そういう感情は……良く分からないけど……。 でも酒場での初めては最初はゴタゴタしたけど、とりあえず穏やかに終わった。 ハークはいつの間にか帰っていて、フェリスさんはカウンターからテーブルに移動していて、そのお客と二階に上がっていった。 店長は別なお客相手にシェイカーを振っていて……。 そしてロアルさんとリーマスさんも二階に……。リーマスさんはロアルさんと手を繋ぎながらデレデレした笑顔でいた。 博愛精神が強い人みたいだけど、ロアルさんは特別な様だ。にゃう。 俺はアジアジ奥の自室のベッドに横になり、ハークの事を考えていた。 今日は無理だったけど、ハーク……次はいつ来てくれるかな? ハークもボス猫として、色々忙しかったりするの、俺……知ってる。 「…………」 ……とりあえず次の休みにハークの所に遊びに行こう……かにゃ?

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