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第27話 "衝撃"的な出会い

「にゃ、ぱ、ぱ! にゃ、ぱ、ぱ! にゃッ、ぱら、ぱー! にゃ、ぱ、ぱ!」 俺は今、アジアジで使う野菜や果物、魚、肉、酒に茶葉にドリンク類等を届けてもらう様に市場の各店に頼んだ帰り道。 長い長い坂の石段をリズミカルに降りている途中だ。 でもこの坂、本当に長いから正直言うと、疲れたのと……飽きた。 だから俺は魔力の板を作り、手摺りに乗せて飛び乗り、そのまま下まで滑り降りることにした。 魔力持ち猫、こんなのもヨユーで出来ちゃうにゃん♪ 「にゃッ……フゥ―――!!!」 風切り音がビュンビュン! スピードも魔力でグングン上げて、フィニッシュで板からジャンプして二回転着地で満点越えにゃ! 俺は口の端を上げて、自分が完璧に最高格好良く決めた瞬間を予想して今からワクワクしている。 だからか無意識に板に魔力を流し込み過ぎた。 階段が終わる手摺りの端の延長線上……丁度俺の着地予測地点に…… 「……にゃー!? お兄さん、避けてー!! せめてしゃがんで……!!!」 「は? ……!!?」 ―ドカッ!!! 冒険者と思われるお兄さんの顔に激突!! だが猫としての特性からか、着地にはクルンと後方一回転で無事着地完了! 俺は無事だが、激突したお兄さんは顔を覆ってしゃがんで悶えてる……本当に悪い事をしてしまった。 俺は慌てて近づき、しゃがんで様子を見ながら謝罪! 「あの、ごめんなさい!」 「ッ……くぅ……てめ……ぇ……? ぅ、ぅわ……かわっ……あー……コホン」 「?」 顔に強く激突しちゃったのか、真っ赤だ……。それとも、怒って……? 「ぁ、あの、大丈夫ですか? 俺、調子に乗っていて……本当にすみません……」 「……俺はヨセム。冒険者だ。君は?」 「え? あ、あの、俺は、シュン……」 真剣な目で自己紹介されたにゃ。 良く見れば、爽やか二枚目の美丈夫。 腰に片手剣を帯びているから、剣士なのかな? ……あーでもーどうしようか…… 「そうだ! お詫びに夕食を奢らせて欲しいみゃ!」 「みゃ?」 ……あ。いけね。猫語が出ちゃった。 でも、『アジアジ』で奢るつもりだから、俺が"猫"だって分かるよな。 それに俺は別に猫なのを隠してないし! 「あー……ま、俺ね、猫の獣人なんだ。それで、『アジアジ』で働いているから夕食……」 「え!? シュンは……『アジアジ』で働いているのか!? 軽食? 酒場?」 「うん。俺、今日は軽食だけど、金土日はフロアの青リボンなんだ。両方だよ」 「青リボン……の猫!」 物凄いガッツポーズ。……き、気迫を感じる。 そしてヨセムの話だと、『アジアジ』は他国まで知れ渡る、猫やケモファンには一度は訪れたいと思う大人気店なのだそうだ。 それを熱く語ってきたヨセムは夕食より酒場に行きたいと言うから、俺はそれで良いならと言った。 しかも、酒場代は自分で払うから俺を撫でたいのだそうだ。そうか、指名か……。 俺は「良いよ」と答え、アジアジの場所を説明しようとしたら、知っているから大丈夫だと言われた。 ヨセムはこの街に着いたばかりで今からギルドに行って顔出ししたり色々用事があるそうで、アジアジには土曜日に行くと言われた。 「―……それじゃ、ヨセム、待ってるから!」 「おう……またな、シュン」 そして俺はヨセムと笑顔で別れた。 俺は店に帰りながら「ルアにも話さないとなー」とか考えており、走りながら後方から不思議なねっとりとしたものを感じた。 その時『後方を確認する為に振り向いてはいけない』、と本能が俺に示唆してきて、それに従いその場を去った。 ……そして不思議なのが、その"ねっとり"したものがヨセムと別れた時以来……俺を付きまとっていると感じるのだ。 「なーんか……監視されている気分にゃ……?」 俺は独り言を呟きながら狭い脱衣所のドアを開けたまま、服を脱いで猫耳と尻尾を出した。 そして一日の埃を落とす為にシャワーをし始めたら、部屋の方から"ガタンガタン!"という音が聞こえてきた。 ……ノアがどこからか落ちたか、触れて何かが倒れたのか……。 俺は飼っているスライムのノアが起こした音だと思ってシャワーを続けて終わらせ、冷えたフルーツ牛乳を手に部屋に戻った。 すると"サワ……"とした空気の流れを感じ、それを辿ったら窓が数センチ開いており、カーテンが僅かに揺れていた。 「……俺、締め忘れた? ……あれ?」 そして窓を閉めようとして、何かを荒く拭った跡を見つけた。 それは、僅かな跡だが、赤……の様な赤茶か……そんな色で……。 「…………血?」 俺はその時、自然とその単語を口にしていた……。

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