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第38話 無自覚心恋

「う~~……ん……どれにしよう?」 俺は今、魔玩具屋に行く途中にあったシルバーアクセの店のショーウィンドを覗き込んでいる。 アジアジで貰った初めてのお金で、ハークにプレゼントを買おうと思って……。 俺はそのプレゼントをシルバーアクセのトップにしようと決めたんだ。 トップに通すのは革紐でもチェーンでも……そこはまだ決めていないけど。 「……とりあえず、店内に行こう……」 こういう店に一人で入るのは初めて……ドキドキする……。 踏ん切りがつかないまま、それなりな時間が過ぎている気がする。 トップにも色々あって、プレート、鐘形、十字架、剣、羽、リング、動物、宝石が埋め込まれた物、馬蹄…… 「……にやッ……あり過ぎ……!」 でもハークにプレゼントしたい。 どれが似合いそうかな……? 「…………ぅぅう~……」 ここで悩んでも進まないと思った俺は、思い切って"カラン"と店の扉を押した。 「やぁ、可愛いお客さんだね。いらっしゃいませ」 中に入って真っ先に声を掛けてくれたのは犬獣人で、どうやら店主みたいだ。 そして彼の前には瞳を閉じた紅色の髪の綺麗な同族の男性が座って居て、長い髪を店主が三つ編みお団子に巻いていた。 俺は一つ頷いたら、「良かったら、ゆっくり見て行って下さいね」と声を掛けられた。 その声に俺は足を動かし、彼等に背を向ける形でショーケースを見始めた。 ケース内には様々なアクセサリーが並んでおり、どれも綺麗な……一品物だった。 はにゃにゃ……! 俺の持ってきたお金だとどの程度の物までが買えるのかな……? 実はそれなりなお値段が並ぶケースを、ドキドキしながら見進める。 デザインがとても気に入ったから、このお店で是非買いたい……。 そんな気持ちでゆっくり見ていたら、後ろで会話が始まった。 「……客か」 「うん、でもまぁ、完成したよ」 「キース、いつもありがとう。では森の見回りに戻る」 「警備、頑張ってね。髪の毛がボサボサになる位無茶しちゃ駄目だよ、ロス」 「分かっている。でも、外側の森に入る前に迷子を保護するのはとても大事なんだ。特に獣人は下手すると……野蛮な奴等に遠くに連れて行かれてしまう」 そんな会話にチラと後方を少し確認した時に、立ち上がった犬さんの腰には紋章入りの剣が揺れており、それから彼がこの街で正式な警備を行っている人物だと分かった。 俺は騎士の詰め所にも遊びに行っていたから、結構見慣れた紋章だ。 きっと獣人枠の騎士サマなのだ。 ―ちゅ 俺はその音に「?」と思ったが、その答えが分かってしまった。 何と、ガラスのケースに後方の二人がキスしているのが映っていたのだ。 瞳を閉じて、幸せそうに口角を上げて軽いキスをした二人。 俺はその姿にドキドキしてしまった。 そして"カラン"と音がして、犬の騎士サマが店から出て行ったのが分かった。 「何か気に入った物がありましたか? もしくは、何かご希望が?」 俺は店主の声掛けに咄嗟に目に入った剣のトップを指して、ケースから出して見せてもらった。 ショートソードをモチーフにしたトップで、柄の部分にスモーククォーツが嵌っている。 剣身は細身だが、存在感がちゃんとある。 慌てて偶然……な割には、とても良い物で俺はこれに決めた。 「この剣のトップで……銀の鎖に通して欲しいんですけど……」 「はい、かしこまりました」 にこやかに言う店主に、俺は「プレゼント用に……」とお願いした。 「―シュン……これは?」 「ハークにプレゼントだよ! 俺が初めて稼いだお金で、色んなお礼!!」 俺から綺麗に包装された箱を受け取り、「開けても?」と言う言葉に大きく頷いた。 そしてハークの掌に乗せられたペンダント。 ハークはそれを箱に戻して、俺を引き寄せてくれた。 引き寄せられ、膝の上に跨って流れる様にキスされた。 「ありがとな、シュン……」 「うン……ん、ん……」 はぁ……ハークとキスするのキモチイイ……。 俺は直ぐに舌をチロリと出してハークに続きを強請った。 そして俺はハークと舌を絡めるキスをしながら、あの二人を思い出していた。 幸せそうに軽く唇を重ねた二人。 少し触れただけで、とても満たされていそうだった……。 とても、近くに……寄り添っている様な彼等。 ……思わず、「良いな」と思った。 そしてその感情のまま、俺はハークと自分に置き換えた。 ハークと、そうしてみたい…… 「シュン……」 「んっ……ふぁ……ハーク……」 俺はハークの口から舌を引っ込め、ちゅ、ちゅ、と軽いキスを落とした。 そして、ハークの胸に埋まる。 どうすれば、ハークとああいう雰囲気になれるの? 何かが……足りない。 二人を思い描く。 ……そうだ 彼等は…………おそらく『恋人』同士だ……。 それに気が付いた時、俺の中に"淡い何か"がフワと生まれて、直ぐに溶け消えた。

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