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episode5
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「……幽幻草、か」
思わず口をついて出たのはさっき教えてもらった、彼からのスペシャルヒント。
『お前、これ知ってンのか?』
メモに書かれた中のひとつ。
トントンと指でさされた店の商品。
そこに書かれていたのが“幽幻草”と言う名の薬草だった。
「確かにこの薬草とお店だけ、聞いたことなかったのに」
知らないです、と首を振ればロディさんはやっぱりなと苦笑し、『ここに行きてえなら、この路地に向かって歩いていけ』とアドバイスをくれた。
「でもなんで知らないって気が付かなかったんだろ……?」
正確に言うと気にしなかった、とも言えるが。
いつもなら師匠に確認したり自分で調べるようにしているのに、なぜ?
行けば分かると笑った彼は、師匠の意思を尊重するという言葉の通り、それ以上は何も言わなかった。
それでも心配してくれたのだろう。
一緒に探してやろうか、と言ってくれた彼だが、これ以上私用に付き合わせてもと思い、大丈夫ですと断った。
『そうか。じゃまあ、頑張れよー』
新しい煙草を咥え、会った時と同じくひらひら手を振る彼を思い出しながら、言われた通り路地を探すことにした。
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エレアンは小さな街だ。
中央にある市場を中心に、ほとんどの店が大通りに並んでいる。
それでも路地にある店だってそこそこ多いうえ、そもそも路地自体が入り組んでいて分かりにくかったりする、ので。
「あれ……ここも違うっぽいな」
メモに書かれた店名と看板を見比べ、何度目かのため息を吐く。
(二人の反応からして会える、ってことだと思ったんだけどなあ)
「……いや、まだまだ」
ちょっと見つからなかったくらいで、諦めてたまるか。
ぱんと顔を叩き路地から出ようとした、その時。
急に勢いよく動いてしまったためか、どん、と肩が誰かにぶつかってしまった。
「おおっと!」
「っすみませ……」
お辞儀をして謝り、すれ違おうとするも、俺より二回りくらい体格の良いその男はそのまま道を塞いでしまい、通してくれなかった。
「すみません。あの……ぶつかったことは謝りますので……通してもらえませんか……?」
改めて丁寧に謝罪し、頼んでみたものの男は腕組みしたままニヤリと口を歪めただけだった。
「……あの……?」
「あ?ったく最近の若ェヤツは言わなきゃわかんねーのかよ。ぶつかっといて詫びもなしか?」
「え、いや、謝ったじゃないで……っぅ」
思わず反論すれば、舌打ちをした男に突き飛ばされる。
不意討ちだったために受け身が取れず、地面へと叩きつけられるように転がる。
「何すっ……!!」
「ああ?謝罪じゃ腹は膨れねえっつってな。こーゆー時は黙って金目のモン出すのが礼儀だろ」
「そうそう。ケガしたくなかったら早く出しとけよ。兄貴は見た目通り短気だからな!」
後ろからもう一人、ひょろりとした男が出てきて、外を背にして壁のように立った。
「てめ、見た目通りは余計だろ!それに短気じゃなくて礼儀にキビシーって言え」
「へーへー、だってよ坊ちゃん。カワイイ顔が腫れる前に言うこと聞いた方がいいんじゃね?」
パキパキと指を鳴らし始めた、最初の――体格の良い男はジリジリと間合いを詰める。
(痛……っ)
立とうにもさっき叩きつけられた時に痛めたらしく足に力が入らない。
そうこうしている間にぐい、と胸ぐらを掴みあげられ、強制的に立ち上がることになる。
ズキッと再び足首に痛みが走った。
「やめっ警察呼びますよ……!!」
何とかしようとじたばたする俺を残念ながら全く意に介さず、けらけら笑った男はやれるもんならやってみろと地面に再び俺を投げ飛ばす。
段々と大通りから離れ、奥へと追いやられてしまい、次第に冷や汗が肌を伝う。
「助けておまわりさーんってか。こんな外れじゃ声なんて届きようがねえよ」
「…………っ」
二度目の体を打ち付けた衝撃に、動けずにいると体格の良い方の男がまたパキパキと拳を鳴らした。
「もうちぃっとばかし痛めつけねえと分かんねえか?」
「あーあ。だからさっさと出しときゃ良かったのに、さ」
もう一人が意地の悪い笑みを浮かべた。
やっぱりロディさんに一緒に来てもらえば良かったんだろうか。
いや休暇中に問題なんて起こさせるわけにはいかない。
それにあの人は俺自身の力で見つけないと意味がないのだから。
ぐっ。
拳を握り、痛みをこらえ立ち上がろうとしたその時だった。
「店の前で騒がれるとだいぶ迷惑ですので、やめて頂けますか」
(……っこの、声……!!)
背後から――つまりは路地の奥の方から涼やかな声が響き、その場にいた自分を含め三人ともそちらに意識が向いた。
振り向いた先、その声同様に凛とした立ち姿のその人は。
地面に倒れていた俺を庇うように横をすり抜け、前に立った。
フードを被っているため、顔ははっきりとは見えないがその佇まいはあの日と同じもので。
(…………ッ!!)
「どうぞ御用が無ければお帰り下さいませ」
紛れもなく、あの日自分を救ってくれた救世主その人だった。
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