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急転直下14
「千秋が教えてくれたんです。お父さんの作ってくれる、紙飛行機が好きだったって。折る形によって遠くまで飛ばすことのできる紙飛行機にすっごく夢中になったからこそ、真剣に学んでみたくなったらしいです」
「それって……」
「俺のことを気にしてるくせに、無理して嫌いな振りをしてみたりと、素直じゃないところがありますからね。千秋は結構、照れ屋ですから」
出逢った頃の千秋を思い出して、苦笑いしながら告げてみた。
大学進学についてきっと反対されるのが分かっていたこともあり、なかなか伝えられなかったのもあったんだろう。
「千秋がそんなことを……。俺がきっかけを作っていたなんて」
「俺からも質問していいでしょうか?」
告げられた真実について相当驚いたのか、口を開けっ放しにしたまま横にいる俺の顔を見上げる。
「どうして、自分のお子さんを作らなかったのかなと思いまして」
「ああ……。それか――」
先ほどとは声のトーンが明らかに違う感じはやはり、聞いてはいけないことだったのだろうか。
「本当は家内が出産してから、ふたりを追い出そうと思っていたんだ」
「えっ?」
「中村に……千秋の父親に押しつけられた形で会社と家内を手に入れることになったのは、自分の本意じゃないものだから」
沈んだ声で告げられた真実は、おばあさんから聞いたことに影を落とすものだった。
「確か、会社の不正と引き換えだったとお聞きしています」
「ああ。どうやってそれを調べたのか。ヤツが俺を脅すには、もってこいのネタだった。中村に土下座されなくても、二つ返事で飲み込むしかなかったさ」
「嫌々引き受けたのに、どうして――」
「会社と結婚は書類上の手続きで済ませたものだったが、あれは――千秋は違った。元気に生まれてきてこの手で抱いた瞬間、自分が守らなければと思うほどに小さくて……。とてもか弱くて」
そのときのことを思い出したのだろう。しげしげとご自分の両手を眺める。
「この手で放り出したら、きっと生きてはいけないと思った。そう考えたときに俺の顔を見て、小さな千秋が笑ったんだ」
「さぞかし可愛かったでしょうね」
今だって十分に可愛いのだから、赤ちゃんの頃なら尚更だ。
「自分で育てると決めてからは育児書を読んで、千秋の笑顔が新生児特有の生理的微笑だと分かっても、可愛くて仕方がなかった」
血が繋がっていなくても、こうして大切に育てられたから、千秋の心はとても綺麗なものだったんだな――俺もお袋に愛されて育ててもらったのに、どこで違えてしまったのか。
「紺野さんが手塩にかけて育てた千秋を、俺のような者が手を出してしまい申し訳ありませんでした」
「なんだ、唐突に……」
頭を下げながら謝罪した俺に、乾いた声で告げる。
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