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想いを重ねる夜9
***
(どう考えても道中のやり取りを、お父さんに聞かれただろうな……)
自宅に到着した途端に、自分で穂高さんの背中から降りようとして、あたふたともがいたお父さん。不機嫌そうな顔色や態度で、道中のやり取りを聞かれたとすぐにわかった。
穂高さんが慌ててしゃがんだら、お礼も言わずに玄関に降り立ち、さっさと靴を脱いで人ン家の中に一番に入ってしまった。
「ありがとうございます、穂高さん」
代わりにお礼を言って、暗闇の中だというのにリビングに行ってしまったお父さんを追いかける。失礼極まりない態度に、俺の中のイライラが増していった。
「千秋、笑顔を忘れているよ」
壁にあるスイッチに手を伸ばした瞬間に、告げられた言葉。室内灯が付くと同時に、穂高さんの大きなてのひらが俺の頭をくしゃりと撫でた。
「だって……」
「まるで駄々っ子みたいだね。それとも反抗期なのかな?」
「反抗期なんて、そんなのありませんよ」
「ふっ。千秋とお父さんは本当の親子のようだ。表情が鏡合わせみたいになってる」
「「そんなわけ」」
なぜかお父さんも俺と同じタイミングで、言葉を発した。そのことに驚いて振り返ると、えらくバツの悪そうな顔をする。
「ほらね、言った通りだろう?」
俺の肩を叩いて、踵を返した穂高さん。慌ててその背中に、手を伸ばした。
「お風呂を沸かしてくる。お父さん、長旅で疲れているだろうから、早く寝たほうがいい」
「あ、お願いします……」
息子の俺よりも気がつく穂高さんに頼りっぱなしで、申し訳ない気持ちになった。
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