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想いを重ねる夜10
穂高さんの背中から手を放すと、急がなければという感じで風呂場に向かう。その優しい心遣いを目の当たりにして、自然と心が癒されてしまった。
「ち、千秋……」
リビングの中央で堂々と突っ立っているお父さんが、俺に向かって話しかけてきた。意を決して、躰ごと振り返る。
「……なに?」
いつも以上に険しい表情をしているお父さんを前にして、どんな態度で接したらいいのかわからない。俺たちを鏡合わせだと指摘した、穂高さんの言葉をどうしても意識してしまって、顔を俯かせるのがやっとだった。
「おまえは今、幸せなのか?」
されるとは思わなかった、幸せについての質問。頭がぶわっと混乱して、すぐには答えられない。
「えっと……、その」
「問いかけに答えられないということは、幸せじゃないんだな?」
俯きながらどもる俺に、お父さんが苛立った感じで問いかけた。反論すべくしっかり顔をあげて、目の前にある顔をじっと見据える。
「違います。お父さんの幸せについての価値観と、俺の考えが違いすぎて、すぐに答えられなかっただけなんです」
「どうして違うと言いきれるんだ」
間髪入れずになされるやり取りに、どんどん嫌気がさしていった。それは俺だけじゃなく、お父さんも同じだろう。
「俺がこれまで見てきたお父さんが、地位や名誉で人を判断しているからです」
(互いに図星を指す会話から、いつもケンカに発展してしまうのがわかっているのに、とめられないなんてバカみたいだ――)
「それのどこが悪い。人の持つステータスを、目安のひとつにしているだけであって――」
「大切な息子の幸せを願わない親なんて、どこにもいませんからね」
お父さんの言葉をさらった穂高さんが、いつの間にか俺の隣に並んだ。
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