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想いを重ねる夜11

「穂高さん?」  不思議顔をしているであろう俺を見下ろす穂高さんの表情は、どこまでも穏やかで頼もしさを感じるものだった。  目を何度も瞬かせながら見上げる俺に、穂高さんは印象的に映る瞳を細めて、穏やかに語りかける。 「まったく。千秋のその態度は、俺が迫ったときと同じだね」 (――どうして、そんな昔のことを喋るんだろう?) 「ぉ、同じってどこがですか……」 「好きなくせに、嫌いな態度をとるところだよ。認めるのが怖いのかい?」 「怖くなんてないですけど」 「だったら、素直になるといい。君が向かい合っているのは、世界にいる誰よりも君の幸せを願う、大切な親なんだから」  その言葉を聞いた途端に、鋭い視線を穂高さんに投げかけてやった。 「なんだい千秋、物言いだけな顔をして」 「穂高さんは、俺の幸せを願っていないのかなぁって」 「願っているからこそ現在進行形で、千秋に一番近い距離にいるんだが?」  くちゃくちゃと俺の頭を手荒に撫でるなり、さっさと背中を向ける。 「すみませんが、今夜中に仕上げなければならない仕事があるので、家を留守にします。俺がいない間に、ぜひとも親子仲良くお過ごしください。千秋、喧嘩をしてはいけないよ」  縋りつく俺の視線を振り切るように、ひらひらと右手を振って、あっさり出て行ってしまった。  穂高さんが出て行ったリビングに、妙な静寂が広がる。居心地のよくないそれを打破せねばと、慌てて声をかけた。 「あ、お父さん、お先にお風呂どうぞ。えっと着替えは――」 「それくらい持ってきた。必要ない」 「え?」 (お父さんってば、日帰りをするはずじゃなかったんだ)  まじまじと見つめる俺の視線を受けて、お父さんは頬をぽっと染めた。慌ててしゃがみ込み、足元に置いてる鞄を開ける。 「なっ、何かあるかもしれないと思って、着替えを持ち歩いていただけだ。深読みするな」 「はい……」 「まったく。あの男にいいように丸め込まれて。情けない」  鞄から出した着替えを手にしたお父さんが、俺の脇を通り過ぎる。その横顔は言葉とは裏腹に、安堵に満ちて見えるものだった。 「お父さん、あのね!」  思いきって、大きな背中に向かって話しかけてみた。 「なんだ?」 「わざわざここまで足を運んでくださり、ありがとうございます」 「仕事のついでに来ただけだ。ついでなんだからな!」  お父さんは言い訳がましい念押しをして、そそくさと浴室に向かった。俺は暫しの間、ぽかんとしていたけれど――。 「ぷっ、やっぱり親子なんだね。これは穂高さんにツッコミされるわけだよ」  血はつながっていないけれど、実家で一緒に暮らしたこれまでの生活を感じさせるやり取りに、自然と笑みが浮かんだのだった。

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