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想いを重ねる夜4
「千秋、お父さんと一緒に船着場から、農協の傍まで向かったんだよ」
俺の考えていたことをさらりと読み取った穂高さんに、すごく驚くしかない。まさに以心伝心だ。
「……島の産業を知るために、大きな道路を道なりに歩いただけで、向かった先にたまたまお前の職場があっただけだからな」
穂高さんの言葉を補足する感じで、お父さんが話し出した。
どこか慌てているような口調に、笑いを噛みしめるのが大変だった。無理して話を作っている様子は、らしくない姿としか言えない。
(お父さんはきっと俺のことを心配して、わざわざここまで来てくれたんだな――)
「あの、外から見た職場はどうでしたか?」
ちょっとだけ躊躇しながら投げかけた質問に、お父さんは一瞬だけ口元を引きつらせたけど、慌てて真顔に戻してビールを口に含む。
あたり障りのない返事をしようと、必死になっているのかな。
俺としては、感想を聞きたかっただけなのに――普段から親子らしい会話をしていないツケが、こういう形で露になるとは思わなかった。
「別に……。どこにでもある建物だろう、あんなの」
「そうですよね……」
どうにもバツが悪くて、手持ちぶさたに缶ビールを手にする。父さんみたいにビールを飲むこともできず、意味なく手の中でぐるぐるまわしてしまった。
俺たち親子のたどたどしい会話のせいで雰囲気はとても悪く、気まずい沈黙が続いた。
穂高さんのお父さんがイタリアから来たときとは、とても賑やかな様子だった。今の状況と正反対過ぎて、笑うに笑えない。
実の息子を目の前にしてもぎこちない態度をとるせいで、島の人もなかなか話しかけてこないし、そこのところを穂高さんのお父さんと比べられるんじゃないかと、いらない心配してみたり――。
「紺野さん!」
低くて張りのある穂高さんの声に、頭の中で考え巡らせていたことが一瞬で吹き飛んだ。何を喋るんだろうと不思議に思って、隣にいる彼を見上げる。
重苦しい空気が漂っているのを肌で感じるというのに、それを跳ね返す強い何かが穂高さんから出ていて、思わず縋りつきたくなってしまった。
膝の上で拳を作ってる右手にそっと左手を被せると、指先を素早く掴んで握りしめてくれる。穂高さんのてのひらの温かさが伝わってきて、気落ちしていた心までもが温められてしまった。
そんな些細なことで安心感が増すから、こうして頼ってしまうんだよな。
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