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想いを重ねる夜15

「お父さん、穂高さんが見た目だけの男じゃないこと、もう実感しているでしょう?」 「そんなの知らん!」  強い口調で俺の言葉を一掃するその態度は、まんま頑固じじいだと思わされた。このままじゃいけないと考えて、あえてこれまでのことを口にしてみる。 「それなりに体重のある、酔いつぶれたお父さんをここまで運んでくれたり、こうやって親子水入らずで話をする機会を作ってくれたりしているじゃないか」 「俺はひとことも――」 「頼んでないと言いたいんでしょ。でもね、俺にとってこの世でお父さんが大切な人だからこそ、穂高さんも同じ気持ちでいるんだよ」  さっきから子どもみたいな言葉を並べ立てるお父さんに、思いきって自分の気持ちを打ち明けた。穂高さんの想いも一緒に――。うまく伝わるかはわからないけれど、少しでもいいから理解してほしかった。 「赤の他人に、息子と同じ気持ちでいられてもな」 「血のつながりのない俺だって、お父さんとは赤の他人だよ」 「…………」  俺が事実を告げた瞬間、息を飲む感じが伝わった。暗闇だからこそ耳やその他の感覚が、鋭敏になっているせいかもしれない。 「まったく血の繋がらない俺を、お父さんが大事に育ててくれたことを知っているから、穂高さんも同じように接してるんだよ。俺から穂高さんに、どうこう育てられたという話はしていない。むしろ、ばあやが教えちゃった感じなんだけどね」 「お義母さんから……」 「お父さんがお母さんと生きているみたいに、俺もこれから先、穂高さんと生きていきたい。そういう考えでいるから少しでもいい、仲良くしてほしいんだ」 「同じことを何度言われても、俺の気は変わらん。もう寝る!」  俺の願いも虚しく、一方的に会話が打ち切られてしまった。 「……おやすみなさい、お父さん」  せっかく穂高さん抜きで話ができたというのに、残念な結果のせいで、なかなか寝付くことかできなかったのである。

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