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想いを重ねる夜6
「念入りに触れ合い、とは?」
「そっ、そうなんだ。念入りに話し合いをして、すれ違いや喧嘩をしないようにお互い突き詰めるみたいな感じのことを、穂高さんは言ったみたい。アハハ!」
誤魔化しきれないのを承知で喋り倒し、どうにも間が持たなくて、中身が残っていた缶ビールを一気飲みしてしまった。
(お父さん、穂高さんの触れ合いっていう言葉に、どうかツッコミを入れないでください)
そんな俺の気持ちを知らない穂高さんが、「あっ」と思い出したかのように呟いたあとに口火を切る。
「そういえば千秋と喧嘩らしい喧嘩を、一緒に住んでからはしていなかったな。離れていたときはそれなりに連絡を取っていたが、誤解させるようなことをお互い言い合ったりメッセージに書いたりして、要らない喧嘩をしたっけ」
「話し合いもそうだけど、やっぱり相手の表情が見える距離にいられるっていうのが、喧嘩をしないコツなのかもしれないよ」
「それだけじゃないだろ。千秋は俺を何とかして驚かせようと、日々アクシデントに励んでいるもんな」
「違うよ。穂高さんが俺に何かしようとコッソリ画策して、驚かせようとしているんじゃないか。それを阻止すべく、俺は普通に身構えてるだけですって」
俺たちのやり取りに船長さんが声を立てて笑い、隣にいるお父さんの肩をバシバシと叩いた。
「変な心配しなくても喧嘩するほど仲がいいって言うし、コイツらの仲にツッコミを入れるだけ、ヤボってもんだ。井上の口癖は何かにつけて『俺の千秋は――』って、うるせぇのなんの」
「あの、貴方はこのふたりの関係について……」
船長さんの言葉に、眉根を寄せたお父さんが話しかけたんだけど――。
「本当に仲が良すぎる兄弟だな。お前らはよぉ」
俺たちの事情を知っているのにあえて兄弟と言って、船長さんは何も知らない風を装ってくれた。
船長さんの発言を聞いてどこかほっとした顔をし、それを誤魔化すようにビールを口にするお父さんを、複雑な心境で眺めてしまった。
穂高さんと付き合っていく以上、お父さんに世間体のことで心配させてしまう自分が嫌だなと思った瞬間だった。
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