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想いを重ねる夜7
***
自発的に飲んだものと勧められて飲んだビールのせいで、お酒に弱いお父さんはまともに歩けなくなり、穂高さんに背負われて家路に向かうことになってしまった。
「ゴメンね、穂高さん。重たいでしょ?」
「ん? 全然。千秋の体重にリンゴを5個ほど足したくらいかな」
楽しげに語る穂高さんの背中で、酔い潰れて眠りこけているお父さんの姿を横目で眺めた。
外国人らしいスキンシップを嫌味にならない程度にまじえつつ、流暢な日本語で会話しながら、島の人と盛大に笑って交流を深めた穂高さんのお父さんとは対照的だった、俺のお父さん。
用意された席にずっと座ったまま、むっつりと押し黙っていた。
それを見て気を遣い、代わるがわる漁協のおばちゃんたちが話しかけながら缶ビールを当てて乾杯して、何とかその場を盛り上げようとしていた。
目の前で行われる様子を見て、息子の俺はハラハラドキドキしたのは言うまでもなく――これが会社の利益に関わることなら、また違った態度をとるのは容易に想像ついた。
「千秋?」
「あ、はい?」
穂高さんからかけられた声に反応して顔を上げると、闇色の瞳を細めて俺をじっと見つめる。
「どうしてそんな風に、落ち込んだ顔をしているんだい?」
落胆している俺の心を慰めるような声が、胸の中にじわりと沁み込んでいった。
それは大好きな穂高さんが心配して、わざわざ声をかけてくれたせいなのか。あるいは、大好きな声で話しかけられたせいなのかは分からないけれど、落ち込んでいた気持ちが簡単に浮上してしまう。
「だって俺のお父さん、漁協での態度が悪すぎて悲しくなってしまったんだ。穂高さんのお父さんの態度を、ぜひとも見習ってほしいくらいだったよ」
「そんなことを気にしていたのか。千秋のお父さんの態度が悪いなんて、誰も思っちゃいない。話をすれば社交的じゃない人だっていうのが、きっと分かるだろう。だが息子の千秋がお父さんと誰かを比べてしまったのを知ったら、悲しむことに繋がるんじゃないかい?」
告げられた言葉を聞いて、さっと瞼を伏せてしまった。自分の心の狭さを突きつけられたせいで、穂高さんの視線から逃げるしかできない。
「千秋……」
俺の名前を告げながら、こつんと躰をぶつけてきた穂高さん。仕方なく顔を上げると、柔らかい笑みを湛えた彼と目が合った。
「千秋のお父さんがこの島に来て、迷うことなく農協に足を向けたんだよ」
「えっ?」
「父親として、息子が勤めているところがどんなところか、すごく知りたかったんだろう。だから、わざわざここに来たんだと思う」
穂高さんが告げた言葉が、じんと胸に染み渡った。
「お父さんは、何か言ってましたか?」
「ふっ、同じ顔で同じ質問を俺にしてくるとは。やっぱり親子だね」
「えっ? 同じ質問を?」
衝撃的な事実に、開いた口が塞がらない。驚いてぽかんとしている俺を、穂高さんは笑い声を立てながら見下ろした。
「ん……。おばあさんから本当の親子じゃないことを聞いた千秋の様子を、お父さんはとても知りたがっていたよ。実の親子じゃないことを知って、ショックを受けただろうってね」
言いながら背負っているお父さんの姿を俺が見えるように、後ろ向きで歩き出した。
「そんな歩き方をしたら危ないですよ、穂高さん」
「千秋は、どっちの心配をしてるのだろうか」
「もちろん、ふたりともです」
即答した俺を何度か目を瞬かせながら見つめたあとに、きちんと前を向いて歩を進める。
「千秋が『穂高さんだよ』って言ったら、叱ってやろうと思っていたのにな」
口ぶりはえらく残念そうだというのに、表情が妙に明るい穂高さんの様子を見て首を捻った。
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