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想いを重ねる夜18

(仕事の忙しい穂高さんのお父さんに、今度いつ逢えるかなんてわからないし、ましてやイタリアなんだから余計に逢う機会がない。穂高さんが寂しく思うのは当然じゃないか! 俺ってばあのとき、そのことに気づかず、フォローをまったくしていなかった) 「穂高さん、俺……」 「大丈夫だよ、千秋。今はテレビ電話で顔を見ることができるんだし、貯金して俺たちがイタリアに行けばいいだけのことだろう?」 「でも――」 「イタリアの前に、千秋の実家に行かなければならないね。おばあさんとお母さんの話を直接聞きたいし、それに」  繋いだ手に力が込められる。穂高さんのぬくもりが伝わってきた瞬間に、波立っていた俺の心が、一気に凪いでしまった。 「千秋の実家に前回行ったときよりも、いい雰囲気で馴染みたい。家族になりたいって思うから」 「穂高さんが家族になる」 「ん……。千秋が大切に想っている人は、俺にとっても同じ気持ちになるからね。当然のことだろう?」  言いながら前を見る穂高さんの視線に促されるように、同じところを見た。前を歩いていたお父さんが、訝しげな顔で俺たちを見つめる。 「おまえたち、もうついてこなくていい」  その言葉に反論する前に、繋いだ手が俺を前へと押し出した。そこまで強い力じゃなかったのに、俺の足は確実にお父さんのもとへ歩みを進める。 「お父さんは嫌かもしれないけど、俺は見送りたいんです。次に逢えるのがいつかわからないんだし、それに――」 「…………」 「来てくれたことが嬉しかったから。息子としてその気持ちを込めて、お父さんを見送りたいんです」  素直な心を告げた途端に、お父さんの頬が赤く染まった。 「千秋のお父さんがライバルになったら、俺は負けてしまうかもしれないね。やれやれ」 「穂高さんってば、なにを言ってるんですか」  さらりと告げられた言葉に照れくささを感じていると、チッという舌打ちが耳に聞こえた。 「勝手にしろ。まったく!」  背中を向けたお父さんだったけど、耳まで赤く染まっていて、それがなんだかおかしく見えてしまい、穂高さんと視線を合わせて小さく笑ってしまった。  家を出たときよりも荒い足取りでフェリーに乗り込もうとしたお父さんが、上半身を揺らめかせながら振り返る。心の内の動揺を示すそれを目の当たりにして、首を傾げた瞬間。 「おい、おまえ!」  鋭い視線が俺ではなく、穂高さんに突き刺さっていた。 「おまえではなく井上穂高です。お父さん」  いつもなら「なんでしょうか、お父さん」と返事をしていた穂高さんが、あえて自分の名前を告げた。その意図がわからず、ふたりのやり取りを黙ったまま見つめる。

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